特別養子縁組の対象年齢を「原則15歳未満」に引き上げへ――民法改正の要綱案まとまる【訂正あり】

実の親と暮らせない子どもと養親の間で縁組をする特別養子縁組について、法制審議会がその対象年齢を「原則6歳未満」から「原則15歳未満」に引き上げるなどとする民法改正の要綱案をまとめたことがわかりました。法務省は今国会で民法改正案の提出を目指すということです。
NHKニュース共同通信など報道各社が伝えました。

【2020年7月20日 訂正】改正後の特別養子縁組の養子の年齢規定について、「例外的に17歳未満」と掲載していましたが、「17歳まで」の誤りでした。お詫びして訂正致します。

特別養子縁組とは

特別養子縁組は、実の親と暮らせない子どもと養親の間で縁組をする制度で、1988年に施行・導入されました[1]。
養親となる夫婦が家庭裁判所に審判を申し立て、原則として実親の同意を得て縁組が成立します。
法律上は子どもと実親の間の親子関係がなくなり、養親と新たな親子関係を結びます。原則として離縁はできません。
ちなみに、「里親」は法律上の親子関係を結ばないしくみで、養子縁組とは異なります

特別養子縁組は、虐待や貧困などの理由で親と一緒に暮らせない子どもの受け皿となる制度で、2016年の児童福祉法改正によって普及に取り組むことが法律で定められました[2]。
しかし、年間の成立件数は500件前後にとどまっています[1,2]。
一方、厚生労働省の有識者会議は2017年の報告書で「5年以内に年間1,000件以上の特別養子縁組成立を目指す」との目標を盛り込んでいます[3]。

平成26年度、27年度の2年間に成立した特別養子縁組は合わせて1,055件でした。
厚生労働省がこの期間に全国の児童相談所などに対して行った聞き取り調査によると、特別養子縁組を検討すべきケースなのに、特別養子縁組の制度自体がハードルとなって特別養子縁組が行えていないケースが298件あったということです[4]。
具体的なハードルの内訳をみると、「実親の同意要件」が205件(68.8%)で最も多く、次いで「年齢要件」が46件(15.4%)などとなっていました。

特別養子縁組制度の活用を促すにあたって、これらの要件がネックになっていると指摘されていました[5]。
そこで、法務大臣の諮問機関である法制審議会の部会は、2018年6月に法務大臣の諮問を受けて、特別養子縁組の制度の見直しについて議論してきました

特別養子縁組制度の見直しの案

現行のしくみ
見直し後
原則6歳未満、例外8歳未満
原則15歳未満、例外17歳まで
実親が家庭裁判所の審判確定までに同意を撤回すると縁組できない
実親の同意は2週間経過すると撤回できなくなる
養親となる夫婦が家庭裁判所に申し立てをする
実親の他、児童相談所の所長も申し立てできる

出典:法制審議会特別養子制度部会「第9回会議資料 要綱案のたたき台(2)」平成31年1月15日開催[6]

年齢要件は「15歳未満」に

現行制度では対象年齢を「原則6歳未満」、「養親となる人が継続して監護している場合は例外的に8歳未満」とする制限があります。
部会が1月29日にまとめた民法改正の要綱案では、これを「原則15歳未満」、「例外的に17歳まで」に変更するとしています。

「15歳以上」は、本人の意思で一定の法律行為ができると民法で定められていて、普通養子縁組(実親との法的関係が残る養子縁組)に自ら同意できる年齢です。
また、年齢が上がるほど養親との関係構築が難しくなる、との指摘もされています。
こうした点を踏まえて、要綱案では対象を原則15歳未満までとしたということです。

15歳から17歳の子どもについても、(1)本人の同意がある、(2)15歳未満の時から養父母となる人と一緒に暮らしている、(3)やむを得ない事情で15歳までに申し立てができなかった、という条件を満たせば、特別養子縁組を認めるということです。

実親の同意は撤回を制限

また、要綱案には、裁判所による特別養子縁組の審査のしくみを見直すことも盛り込まれています。

現行制度では、実親が子の引き渡しに同意しても、裁判所の審判が正式に確定するまではいつでも撤回できるようになっています。
このため、要綱案では同意してから2週間が経てば撤回できないようにするとしています。

これまでの審査プロセスを見直して2段階に分け、第1段階では実親が特別養子縁組に同意していることなどの審査を行い、実親の同意を確定させます。
2段階目で養親となる夫婦の適格性を審査しますが、実親は第2段階に参加できないようにするということです。

このほか、養親にかかる手続きの負担を減らすため、児童福祉法を改正して、児童相談所の所長が裁判所に特別養子縁組の申し立てをできるようにすることも盛り込まれています。

法制審議会はこの要綱案を2月に正式決定して法務大臣に答申します。
法務省は今国会での民法改正案の提出を目指すということです。特別養子縁組の制度が見直されれば、1988年の導入以来初となります。


画像はイメージ。/ Photo by StockSnap, Pixabay (CC0)

参考文献

  • [1] 法務省法制審議会特別養子制度部会「第1回会議資料1 特別養子制度の見直しに当たっての検討課題」平成30年6月26日開催( リンク
  • [2] 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」平成31年1月( リンク
  • [3] 厚生労働省 新たな社会的養育の在り方に関する検討会「新しい社会的養育ビジョン」平成29年8月( リンク
  • [4] 公益社団法人商事法務研究会「特別養子を中心とした養子制度の在り方に関する研究会中間報告書」平成30年6月( リンク
  • [5] 厚生労働省 児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会「第15回資料1-2 特別養子縁組の利用促進を図るための児童福祉の観点からの意見等」平成29年3月28日開催( リンク
  • [6] 法務省 法制審議会特別養子制度部会「第9回会議資料 要綱案のたたき台(2)」平成31年1月15日開催( リンク
社会で子育てドットコム編集部
社会で子育てドットコム編集部

「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。