子ども虐待対応件数、平成30年度は16万件――前年度から20%増で過去最多

厚生労働省は8月1日、平成30年度(2018年度)の児童相談所における児童虐待相談対応件数が 15万9,850件(速報値)だったと発表しました[1]。
前年度から20%近く増えており、過去最多を更新しました。
この児童虐待相談対応件数は28年連続で増加を続けており、その背景として面前DVに関する通告が増えたことや、虐待に対する社会の意識が高まってきたことが指摘されています。

虐待全体の相談対応件数が増え続けているのとは対照的に、虐待による死亡数は目立った増加傾向にあるとは言えません。


画像はイメージ。/ Copyright 社会で子育てドットコム編集部 All rights reserved.

児童虐待相談対応件数

「相談対応件数」とは、「児童相談所が相談を受け、援助方針会議の結果により指導や措置等を行った件数」のことで、厚生労働省が毎年度の集計結果を発表しています。
平成30年度中に、全国212か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は159,850件(速報値)で、過去最多でした。
前年度の 13万3,778 件と比べて 19.5 % の増加となっています。
この件数は、統計を取り始めた平成2年度(1990年度)以来、毎年増加を続けており、これで28年連続の増加となりました。

児童虐待の相談対応件数 平成30年度(速報値)

平成2年度(1990年度)に統計を取り始めて以来、虐待相談対応件数は増加し続けています。

出典:厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」令和元年8月1日[1]
※平成22年度は福島県を除く。
グラフ作成:社会で子育てドットコム編集部

どんな虐待が増えているか

児童虐待は「身体的虐待」「心理的虐待」「ネグレクト」「性的虐待」の4種類に分けられます。
実際には1人の子どもにおいて複数の種類の虐待が重なって起きることが少なくありませんが、厚生労働省は相談対応した虐待を主な内容別に集計し、内訳を公表しています。

平成30年度の内訳(速報値)をみると、平成30年度は心理的虐待が 88,389 件で全体の 55% を占め、次いで身体的虐待が 40,256 件(25%)、ネグレクトが 29,474 件(18.4%)、性的虐待が 1,731件(1.1%)となっています。
前年度と比べて、4種類の虐待すべてで件数が増加しましたが、特に身体的虐待と心理的虐待はそれぞれ 20% 増加し、ネグレクト(10% 増加)や性的虐待(13% 増加)よりも伸びが顕著でした。

心理的虐待には、子どもの見ているところで家族に暴力を振るう行為、いわゆる「面前DV」が含まれています。
面前DVは、子どもに心理的な負荷をかけて成長に悪影響を与えるとして、児童虐待防止法の2004年の改正時に心理的虐待の一部と定められました。
面前DVは警察が把握することが多く、警察から児童相談所への面前DVの通告が増えていたことが、虐待相談対応件数の増加の一因になっているとみられます[2,3]。

虐待の内容の内訳

虐待の内訳をパーセント表示にしたもの。
平成25年度以降は、身体的虐待よりも心理的虐待の占める割合の方が高くなっています。

出典:厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数(速報値)」令和元年8月1日[1]
※平成22年度は福島県を除く。
グラフ作成:社会で子育てドットコム編集部

平成30年度に通告をした人の内訳は、警察が全体の 50% を占め、次いで近隣住民・知人が 13%、学校等や家族がそれぞれ 7% ずつなどとなっています。
平成12年度(2000年度)には、児童虐待の通告が義務化されました。
警察・学校などの関係機関や、一般市民の間で子ども虐待に対する意識が高まってきたことが、虐待相談対応件数の増加の一因と指摘されています[3,4,5]。

48時間ルールの緊急点検

厚生労働省は虐待通告を受けた際に児童相談所が 48 時間以内に安全確認をする「 48 時間ルール」について、緊急点検の結果を発表しました[1]。
点検対象期間に受けた通告の 1 割でルールが守られておらず、その大半で「緊急性が低い」と判断されていたということです。
厚生労働省は全国の児童相談所にルールの徹底を求めています[1]。

ただ、虐待の通告件数の増加に対して、対応する職員(児童福祉司)を確保できておらず、48時間ルールを守るのは現実的には難しい、などの声も上がっています[4,6]。

29年度までの死亡事例の検証

また、厚生労働省の有識者会議が平成29年度の虐待死事例を検証した結果も公表されました[1][7]。
それによると、平成 29 年度の間に 58 例の虐待で 65 人が亡くなったとしています。1 週間で平均 1.35 人の子どもが亡くなっている計算になります。
このうち無理心中を除いた虐待死は 52 人で、その過半数の 28 人が 0 歳児でした。また、虐待種別は身体的虐待 22 人、ネグレクト 20 人でした。

平成29年度の死亡数は、前年度の 77 人を下回りました。
虐待全体の相談対応件数が増え続けているのとは対照的に、虐待による死亡数は目立った増加傾向にあるとは言えません。

虐待・心中による死亡事例件数

出典:厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「 子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第15次報告)のポイント」令和元年8月1日[1]
※人数は社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会による検証結果に基づく。
※平成15年~平成19年までは西暦ごと、平成20年度以降は年度ごとの集計。ただし平成15年は7月1日~12月31日の6か月間、平成19年は1月1日~3月31日の15か月間の集計。
グラフ作成:社会で子育てドットコム編集部

参考文献

  • [1] 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第15次報告)、平成30年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数及び「通告受理後48時間以内の安全確認ルール」の実施状況の緊急点検の結果」令和元年8月1日付、2019年8月1日閲覧( リンク
  • [2] 毎日新聞「児童虐待 最多15.9万件 「心理的」5割占める 18年度」2019年8月1日付、2019年8月1日閲覧( リンク
  • [3] 朝日新聞「児童虐待、最多を更新 48時間ルール、8%で守られず」2019年8月1日付、2019年8月1日閲覧( リンク
  • [4] 日本経済新聞「虐待の安否確認1.2万件守れず 児相「48時間ルール」」2019年8月1日付、2019年8月1日閲覧( リンク
  • [5] 産経新聞「児童虐待、過去最多の15万9000件、28年連続で増加」2019年8月1日付、2019年8月1日閲覧( リンク
  • [6] NHKニュース「児童虐待 昨年度約16万件で過去最多更新」2019年8月1日付、2019年8月1日閲覧( リンク
  • [7] 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課虐待防止対策推進室「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第15次報告)」令和元年8月1日付、2019年8月1日閲覧( リンク
社会で子育てドットコム編集部
社会で子育てドットコム編集部

「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。