NPO法人ライツオン・チルドレンでは2019年11月に助成事業を行い、東京の児童養護施設から「実現したいストーリー」を募集し、3つのストーリーを採択しました。
今回はそのうちの1件について、記事にしてお届けします(記事中 敬称略)。
このストーリーを応募して下さったのは、小平市にある児童養護施設二葉むさしが丘学園です。
二葉むさしが丘学園では、児童相談所が一時保護すると決定した子どもを、一時保護所に代わって預かる事業に取り組んでいます。
今回の助成金はテレビとブルーレイレコーダーの購入に充てられ、施設で一時保護されている子どものために使用されています。
職員の方にレポートして頂いたので、一部改変してご紹介します(内容は2020年3月時点)。
しかし、子どもたちは「一時保護中」であるため、外出制限があります。
施設内の入所児童との交流も基本的には行えないため、施設内外での様々な行事にも参加することができません。
保護期間は原則として2カ月で、その間に児童相談所が子どもの落ち着く先を定めていくものとされていますが、現状は2カ月を超えるケースがほとんどで、最長では5カ月もの間保護をしていたケースもあります。
一時保護中の子どもの一日のスケジュール。一時保護のルールにより、基本的に施設外へ出ることができません。/ 写真提供:児童養護施設 二葉むさしが丘学園
児童虐待への関心が社会の中で非常に高まっており、こうした一時保護のニーズも急増しています。
しかし、委託費として入ってくるお金が非常に限られているため、余暇支援や学習支援、また環境整備なども手厚く行うことが出来ません。参考書を買う予算がないため、ドリルを1ページ毎にコピーして使ったりしています。
一時保護中の子どもたちの生活環境を少しでも改善してあげたいと思っていますが、限られた資源の中で子どもたちをサポートせざるを得ないのが現状です。
一時保護中の子どもの多くは学校に通えないため、職員がプリントなどを用意して学習支援を行います。/ 写真提供:児童養護施設 二葉むさしが丘学園
その中でテレビに至っては、十数年前の物を使い続けており、画面も小さく、また録画機能も使えませんでした。レンタルショップのDVDも、費用を考えると頻繁に借りる事は難しく、長期休みや季節のイベント時等の特別な時に利用出来る程度でした。
今回、助成をいただけたことで、テレビとブルーレイディスクレコーダーを購入することができました。
今までは誰がどの番組を見るのか、というささいなことでケンカになっていましたが、録画機能を使えるようになったことでトラブルも減りました。
一時保護事業に導入された新しいテレビとブルーレイレコーダー。/ 写真提供:児童養護施設 二葉むさしが丘学園
また、一時保護中には行くことができない『映画館』を再現すべく、カーテンを閉めホールを真っ暗にし、おやつを食べながらみんなで映画を鑑賞したり、音楽番組をみながら大合唱をしたりと子どもたちは存分に活用させて頂いております。
さらに、最近では、学習ボランティアさんの提案によりプログラミング学習も取り入れ始めました。テレビにキーボードやマウスなどを繋げて学習支援にも使用させて頂いております。
机に向かって勉強することが苦手な子どもも意欲的に取り組むことが出来ています。
子どもの命や未来を守るための『一時保護』ではありますが、子どもたちは当然、その間の生活で大きなストレスや不安を感じています。
今回のご寄付によって、こうした子どもたちに少しでも心安らぐような時間を提供することが出来ました。
「一時保護委託」とは
児童相談所(児相)は、「一時保護」した子どもを原則として「一時保護所」に入所させることになっています。
しかし、必要に応じて民間の機関などに一時保護を委託することも認められています。
これを「一時保護委託」と言います。
二葉むさしが丘学園では、一時保護委託の子どもを受け入れるために、定員6名のユニット(生活単位)を用意して、「一時保護委託事業」に取り組んでいます。
委託事業の特長を生かして
一時保護所の場合は原則として通学ができないとされていますが、この一時保護委託事業では子どもの通学機会を可能な限り保障しているといいます。
ただ、安全面に配慮が必要な子どももいるため、今のところ中学・高校への通学実績のみとなっています。
二葉むさしが丘学園によると、都の児童相談所も一時保護委託事業の特長を踏まえて、子どもの個別のニーズに応えようとしているといいます。
「一時保護所でうまく馴染めない子や、より少人数の環境が望ましい子、近隣の家庭の子などを、『このケースはぜひお願いしたい』と連絡いただけることも増えてきています。」
一時保護委託は増加中、態勢は…
全国の統計では、一時保護委託の件数は年々増えており、平成30年度は2万700件あまりでした[1]。
実は、一時保護所での保護よりも速いペースで増加しています。
二葉むさしが丘学園では、2019年度は2月末時点で340件の依頼がありました。
2018年以降の年間依頼件数が2016~2017年度と比べて倍以上に増えているということです。
その背景には、虐待による痛ましい事件が相次いだことで人々の虐待への意識が向上したり、国が児相に安全確認の徹底を求めたりしたことがあると見られます。
一方、一時保護委託のために国・自治体の負担で増えた職員配置は、二葉むさしが丘学園では1人だけです。
担当職員たちは常に子どもや児童相談所への対応に追われているといいます。
一時保護委託されている子どもの多くが日中も園内に留まらざるを得ない中、余暇や学業の機会をどう確保していくか、課題は大きいようです。
一時保護中の子どもに必要なのは、安全だけはありません。全国の一時保護の態勢が早急に整い、子ども達に安心や楽しい時間を提供できるようになることを願っています。
GOODS for GOOD について
NPO法人ライツオン・チルドレンの「GOODS for GOOD 助成 2019」では、東京の児童養護施設から「助成金を使って実現したいストーリー」を募集しました。
助成資金は、ライツオン・チルドレンの支援企業であるドイツ銀行グループ様が、社内でチャリティバザーを開催して調達して下さいました。
選考はドイツ銀行グループ内の有志メンバーが担当しました。
「GOODS for GOOD 助成 2019」の採択結果については、こちらの記事をご覧ください:
「東京の児童養護施設に向けた助成公募を行い、3件の応募を採択しました(GOODS for GOOD 助成 2019)」
参考文献
- [1] 政府統計の総合窓口(e-Stat)「福祉行政報告例」(平成23年度-平成30年度)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/69-19.html 2020年1月29日閲覧)

社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
関連記事
最近の記事
-
メディア掲載:「世界の児童と母性」89号―「コロナ禍で顕在化した子どもたちの ICT 環境整備の課題」
-
ドイツ銀行グループ様の母子生活支援施設向け助成を実施しました
-
ライツオン・チルドレンより、新年のご挨拶
-
経過報告(2):東京の児童養護施設10か所にパソコン72台を贈りました
-
「児童福祉施設でITを活用するための情報サイト」を公開しました
-
「児童養護施設にパソコンを贈る取り組み」を千葉・埼玉・神奈川の3県に拡大します
-
児童養護施設などのオンライン授業対応、国が補正予算で補助【5月7日追記】
-
経過報告(1):東京の児童養護施設20か所にパソコン125台を贈りました
-
東京の児童養護施設、オンライン学習対応に苦慮――緊急アンケート結果
-
2020年代の社会的養育を描く「推進計画」、各自治体でまとまる――里親委託の目標値は国と大きなズレ
人気の記事
-
児童養護施設にモノを贈るときのポイント――何が喜ばれる?注意すべき点は?
-
「母子生活支援施設」ってどんなところ?(前編)――DVシェルター以上の役割
-
里親と養子縁組を混同しないために、知っておきたい4つのこと
-
児童養護施設で暮らす子どもを短期間預かり、家庭経験を――「フレンドホーム」という仕組み
-
災害や病気で子育てができなくなった!→祖父母やきょうだいが子どもを引き取る場合、自治体から金銭的支援が受けられます
-
これって子ども虐待かも…と思ったとき、連絡するのはここ! 電話番号「189」
-
特別養子縁組の対象拡大、2020年4月から施行
-
一時保護中のストレスや不安を少しでも軽減させるために――「一時保護委託」の環境整備
-
子ども虐待対応件数、平成30年度は16万件――前年度から20%増で過去最多
-
保護者による体罰禁止、2020年4月から施行――改正法が成立