表参道駅近くに新設計画の児童相談所などの複合施設、地元で反対の呼びかけに直面【12月19日追記】
- 2018年10月15日
- 社会で子育てドットコム編集部
東京都港区が新設を計画している児童相談所等の複合施設について、地域の企業等で作るグループが反対を呼びかけています。区は10月12日と14日に説明会を開きました。
区が新設を計画しているのは「港区子ども家庭総合支援センター」(仮称)です。
これは子ども家庭支援センター、児童相談所、母子生活支援施設などからなる複合施設で、南青山五丁目の農林水産会館跡地に建設し、2021年4月にオープンする予定となっています。
場所は表参道駅や骨董通りのすぐ近くで、周囲に事務所・マンションなどが立ち並ぶほか、近隣には高級ブランド店、美術館、区立小学校などがあります。

港区子ども家庭総合支援センター(仮称)建設予定地、現在のようす / Photo by 特定非営利活動法人ライツオン・チルドレン

港区子ども家庭総合支援センター(仮称)建設予定地、現在のようす / Photo by 特定非営利活動法人ライツオン・チルドレン
どのような施設か
区の資料によると、「港区子ども家庭総合支援センター」(仮称)は子ども家庭支援センター、児童相談所(一時保護所を含む)、母子生活支援施設のほかにカフェスペース、体育館などを合わせた地上4階建ての複合施設になるということです[1]。
区は「親子連れが安心して集えるオープンな施設」で、「幼児(おおむね3歳まで)とその保護者が親子で遊び、子育て仲間と交流することができる『子育てひろば』を中心」とし、「子ども対象の活動をしている民間団体やボランティア、近隣住民や事業者と連携」しながら多様な活動を行うとしています[2]。
また、子ども家庭支援センターや児童相談所には相談窓口としての役割があります。
児童相談所だけでも、子育ての悩みや児童虐待に関する相談、子どもの健康や障害に関する相談、非行や不登校に関する相談、養子縁組についての相談など、幅広い内容に対応することになっています[2]。
区はセンターの開設により「子どもと家庭の状況に応じ、迅速、丁寧な相談、支援を総合的に行う」としています[1]。
【2018年12月19日追記:報道機関各社がこの問題を取り上げる際に、児童相談所の一時保護所から子どもが地元の小中学校に通うかのような取り上げ方が散見されます。実際には、一時保護中の子どもは基本的に外出できず、一時保護所の中で勉強をします。子どもの学区も原則として変わらないので、地元の学校に転校とはなりません(港区の資料)。一方、母子生活支援施設からは、地元の小中学校に子どもが通うのが一般的です。一時保護中の子どもと母子生活支援施設で暮らす母子は区別して報じる必要があります。】
予想される利用者数については、現在の子ども家庭支援センターの年間利用者数が「親子ふれあい広場が約25,000人、そのほかに子育て講座の参加者が約8,300人、専門相談の利用者が約1,200人など」であり、区は新しい子ども家庭支援センターだけでこれ以上の利用者数を見込んでいるとしています[2]。
センターの設置計画は2017年2月に公表され、整備内容などについて港区議会で議論のうえ、用地取得などのための予算が可決されています。2017年12月には、住民説明会も行われていました。
反対の呼びかけ
一方、地域の企業などで作るグループがこの施設の建設への反対を呼びかけています。
株式会社グリーンシード内に事務局を置く「青山の未来を考える会」は、「青山の真ん中にそぐわない」「街の魅力が半減する」などとしてこのセンター開設に反対しており、資料をウェブサイトにて公開しています。
なお、グリーンシードは「青山・原宿を中心に、1996年の創業以来、港区および渋谷区エリアの不動産を取り扱っている会社」(ウェブサイトより)とのことです。
同会は、児童相談所や母子生活支援施設を含むセンターの開設が「青山通り周辺地区まちづくりガイドライン」に反するとしています。
「まちづくりガイドライン」は区が住民・事業者の意見を踏まえたうえで策定したもので、青山通り周辺を「気品とにぎわいのある魅力的なまち」「安全・安心して生活できる落ち着きのあるまち」「豊かな環境で過ごせる快適なまち」として整備する目標が掲げられています。
【2018年12月19日追記:グリーンシードのウェブサイトに掲載されていた資料は削除されていますが、「青山の未来を考える会」のウェブサイトが新設されています。】

青山通り(国道246号)の南青山五丁目交差点。左折して骨董通りに入った先に予定地がある / Photo by 特定非営利活動法人ライツオン・チルドレン
区は10月12日(金)と14日(日)に地域への説明会を開催しました。
このうち予定地近くで行われた14日の説明会では、参加者が大声で発言するなどして紛糾。「絶叫大会だった」「子育て施設だと聞いていたのに怖かった」と話す参加者もいました。
説明会のようすは、FNN(フジテレビ系)でも取り上げられました。
説明会の会場外では「青山の未来を考える会」への入会をお願いするビラが配られていました。
このビラによると、会員企業としてグリーンシードを含む4社が名を連ねています。

区の説明会の会場外で配られていたビラ。/ 説明会参加者撮影(一部加工してあります)
【2018年12月19日追記:2018年12月14日・15日に港区が区民等説明会を開催しました。説明会では有識者が「地域子育て支援と児童相談所設置の意義」について解説し、港区担当者から「子ども家庭総合支援センター」の概要や開設決定経緯などについて説明がありました(資料1、資料2、資料3)。参加者は2日間で延べ300人ほどだったということです。この会場の外では、「青山の未来を考える会」が署名受付をしていました。また、「青山の未来を考える会」はこの説明会開催の数日前にウェブサイトを開設し、そこでも署名を呼びかけています。この署名は港区在住・在勤でない人でも署名が可能だとしていて、署名の郵送先は引き続き株式会社グリーンシードと同じ住所になっていています。】
「区児相」の開設とは
児童相談所の設置は都道府県と政令指定都市・中核市のみに認められていましたが、2016年の児童福祉法改正で特別区にも設置が認められました。
住民基本台帳や学校・保健所などの管理は区が所管しています。児童相談所も区に移管したほうが、地域の関係機関で連携しやすいとのねらいがあります。
現在、都内の児童相談所は11箇所(うち23区内は7か所)あり、すべて都が所管しています。
法改正を受けて、練馬区を除く22の特別区が児童相談所(いわゆる「区児相」)を開設する方針を示しています。
先行3区(2020年度設置予定:世田谷区、荒川区、江戸川区)とそれに続く5区(2021年度設置予定:新宿区、板橋区、港区、中野区、豊島区)が積極的に動き始めています。
しかし、人材の確保・養成に課題が指摘されているほか、用地取得についても「保育所整備などほかの行政需要」があるためスムーズに進まない場合があると報じられています。

社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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