児童養護施設・乳児院と聞くと、どこか遠い存在のように感じていませんか?
児童養護施設・乳児院では、虐待や親の病気など様々な理由で親と暮らせない子どもたちが暮らしています。
でも、実はこうした施設で暮らす子どもの「育ち」に、一般家庭が関われる制度があるんです!
今回の記事では、東京都の「フレンドホーム」制度を例にとって紹介していきます。
目次
フレンドホーム制度とは
「フレンドホーム」制度とは、普段施設で生活している子どもが、一般家庭で家庭経験をさせてもらう制度です。
里親やファミリーホーム、特別養子縁組といった制度とは異なります。
東京都によるフレンドホーム制度のページはこちら。
都の児童養護施設で暮らす子どもの数は3,000人あまり、乳児院は420人あまりとなっています(平成30年3月1日時点)[1]。
児童養護施設・乳児院で暮らす子どもの中には、施設での暮らしが長く、家庭経験がほとんどない子どももいます。
そうした子どもに家庭体験を提供するためのしくみが「フレンドホーム」です。
フレンドホームでは、だいたい半日~数日間単位の交流を継続していきます。
交流の頻度は、フレンドホームさんや子どもの個別の状況により様々ですが、基本的には月1回くらいのペースが目安となるようです。
基本的には子どもが施設を出て自立するまで、長く交流を続けていくことが期待されます。
交流を続けるうちに、子どもの意外な一面が見えてきたり、思いがけない成長に気付くことができる場合もあります。
どんな子を預かるの?
乳児院や児童養護施設で生活している子ども(幼児~高校生)が対象です。
(東京都ではおおむね「12歳」までとしていますが、実際には高校生でフレンドホームに行くケースもあります。)
フレンドホーム制度で家庭と子どもをマッチングする際は、お互いのバックグラウンドや家族構成、性格・相性なども考慮されます。
児童養護施設・乳児院にいるすべての子どもがマッチング候補に上がってくるわけではなく、家族の面会交流や一時帰宅が叶わない子どもを中心に、発達状況や心理状況なども考慮して候補が選ばれています。
「家庭のふつうの日常」が求められている
フレンドホームでは、必ずしも子どもを手厚くもてなしたり、張り切ってレジャーなどに連れて出かけたりする必要はありません。
フレンドホームさんに期待されているのは、人間関係も含めて「ふつうの家庭生活」を子どもに見せ、体験させてあげることです。
児童養護施設・乳児院では、なるべく家庭に近い環境を実現できるよう努力が続けられています。
しかし、職員人数や予算などの制約から、親子3~4人の一般家庭と同じ養育環境が実現できているとは言えません。
その一方で、長いこと施設で育てられた子どもたちも、原則18歳で施設を出て、自立していく必要があります。
将来、社会生活で戸惑ったり、家族を持った時に困ったりしないようにするには、施設を出る前に少しでも家庭体験をさせてあげることが重要です。
「一緒にスーパーに行って旬の食材やお買い得な食材をチェックし、一緒に献立を考える」「一緒に近所の公園に行って遊ぶ」など、ごくごく一般的な家庭の経験をさせていただくことが大切なのです。
フレンドホーム登録の条件
それでは、フレンドホームの登録条件を確認してみましょう。厳密な条件はいくつもあるのですが、ここでは特に注目したい項目をピックアップしてお伝えします。
(以下、東京都のページに記載の条件を噛み砕いた文章に置き換えて紹介しています[2][3]。)
――都外にお住いの方が一律にダメというわけではなく、施設長が子どもとフレンドホームとの交流状況を把握できる状況であれば、都外在住であっても可となる場合があります。
また、東京都が子どもを委託している施設は都外にもあり、こうした施設がある市町村やそれに隣接する市町村も条件を満たすようです。
――同居する人全員がフレンドホーム制度を理解し、同意していることが重要です。
同居者はいるが親族ではないという場合は、「同居状態の安定性、継続性」を考慮して判断されます。その際、住民票や各種証明書類等をもとに同居に至った経緯や同居年数等を確認されることがあります。
また、単身世帯やひとり親世帯であっても、「子どもと適切に交流ができると認められる特段の事情」があれば可となる場合があります。
例えば「保育士や児童福祉司として長年勤務した経験がある」「ひとり親として養育経験がある」「里親として委託児童を養育した経験がある」などに該当し、なおかつ子どもと交流する時間が十分とれる場合は、特段の事情として考慮されるようです。
とはいえ、最終的には「個々の状況を踏まえて総合的に判断」されることになっています。
なお、以前は「申込者の年齢はおおむね25歳以上65歳未満」などの細かい年齢条件がありましたが、2019年1月1日付で改正され、子どもと交流するのに十分な「心身の健全」さがあれば可となりました。
――交流児童の年齢・性別も考慮して、お住まいが寝泊まりするのに適切な広さと間取りになっているかがチェックされます。
フレンドホーム登録に申し込むと、その児童養護施設・乳児院の職員が家庭訪問に来て、住居や家族構成を含めた生活状況を確認します。
――当然ですが、交流中の子どもに不適切な関わり合いがあってはいけません。
フレンドホーム登録の申込手続き
フレンドホーム登録は、都内の児童養護施設・乳児院がそれぞれ担当しています。(※都から子どもを委託されている都外の施設も含みます。)
上で紹介した登録条件についても確認のうえで、最終的には児童養護施設・乳児院がフレンドホーム登録の可否を判断します。
ただし、フレンドホームを募集していない施設もあります。
なので、フレンドホーム登録を希望する方は、お近くの児童養護施設・乳児院のホームページ等で募集状況を確認して申し込むか、東京都の育成支援課 里親担当や都の児童相談所に申し込みの相談をしてください。
申し込みの後、同居者全員が揃った状態で家庭訪問を受ける必要があります。
登録が認められれば、候補児童とのマッチング(引き合わせ)を待つことになります。
登録は施設ごとですが、フレンドホーム候補の子どもの情報は育成支援課で集約されているので、他の施設の子どもとマッチングされる可能性もあります。
候補の子どもが出てフレンドホームさんと引き合わせることになった場合、施設の担当者(里親支援専門相談員)の調整のもとで以下のようなステップを踏んで、少しずつお互いへの理解を深めていきます。
- 施設内の交流部屋にて、職員同席のもと交流をする。
- 施設の近隣にて、職員がいない状態で短時間の交流をする。
- 職員と一緒にお家に遊びに行き、徐々に時間をのばしていく。
- フレンドホームさんのご自宅にて外泊。
お金や保険に関すること
東京都のフレンドホーム制度では、子どもがご家庭に滞在した泊数に応じて謝礼が支払われます。
児童養護施設については2泊3日以上、乳児院については1泊2日以上の交流に対して、子ども1人あたり1日2,300円が支払われます。
1回の交流が7日を超える場合は、8日目以降の謝礼は支払われません。
また、交流期間中に思いがけない事故があって、損害賠償責任が発生した場合は、都が加入する損害賠償責任保険から保険金が支出されます。
東京都以外の自治体の場合は?
今回は東京都の「フレンドホーム」制度を例にとって紹介しましたが、同様の制度・取り組みは全国各地で行われています。
ただし、制度の名称や内容は自治体によって様々です。
神奈川県の場合は特に細分化されていて、横浜市が「フレンドホーム」、川崎市が「ふるさと里親」、相模原市が「週末家庭」、横須賀市やその他の地域が「3日里親」という制度名になっています。
また、新たな制度を設けず、通常の里親制度を活用している自治体もあります。
詳しくは、お住まいの地域の自治体に確認してください。
おわりに
「里親になるのは非常にハードルが高い」という人でも、主な養育を施設が担いつつ、週末や長期の休みの時だけ交流する形であれば、ぐっとハードルが下がるのはないでしょうか。
もちろん、短期間の交流といっても、子どもの「育ち」に直接関わるわけなので、それなりの責任を負うことになります。
社会的に恵まれず家庭生活の経験がない子どもを応援したい、継続して関わっていきたいと考えている方に、ぜひ知っていただきたい制度です。
「社会で子育てドットコム」では、今後もフレンドホームや類似の取り組みに注目していきます。
【2019年1月21日追記】こちらの記事もご覧ください!→ 「遠い親戚のお子さんを預かる気持ち」――フレンドホームとして子どもと交流する方々の声
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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