数年前、匿名や「伊達直人」名義の人物から各地の児童養護施設にランドセルが届く、というニュースがいくつも続いた時期があり、通称「タイガーマスク運動」としてメディアを賑わせました。
個人が善意でモノを贈るのは素晴らしいことですし、法人(企業など)でも社会貢献活動として物品を寄贈されているケースが多くあります。
ただ、物品は何でもいいわけではありませんし、贈り方にも少し注意が必要です。
この記事では社会で子育てドットコム編集部が、児童養護施設に物品を贈る場合のポイントを解説していきます。(お金の寄付については別の記事で解説しています。)
(※ここでは便宜上「寄贈」という単語を使っていますが、一般的な「寄付」と同じ意味です。)
(※主に東京の複数の児童養護施設で働く職員から聞き取った内容をもとに構成しています。全国のすべての施設に当てはまるとは限りませんので、ご了承ください。)

「子どもへのプレゼント」という発想でOKなの? / Copyright 2018 社会で子育てドットコム All rights reserved.
児童養護施設が外部からの支援を必要とする理由
「児童養護施設」は、虐待や経済的事情などの事情で親と暮らせない子どもたちを受け入れ、親に代わって子育てを提供する施設です。
職員が子どもたちの世話をし、毎朝学校に送り出し、夏休みには旅行などのレクリエーションがあり、病気になったら病院へ連れていきます。
全国にある児童養護施設の多くは民間が設置・運営していて、自治体から子どもたちの養育を委託される形となっています。
児童養護施設の子どもたちの衣食住と基本的な学習の機会を確保するため、国と自治体から一定の資金(措置費や補助金)が支給されています。
ただし、使い道があらかじめ細かく割り振ってあるので、施設で必要なあらゆる支出をカバーする性質のものにはなっていません。
なので、多くの児童養護施設が外部からお金の寄付やモノの寄贈を受け入れています。
(外部から支援を受け入れることには、地域交流という側面もあり、こちらも重要です。)
どんなモノが必要とされているか
まず、どのような品目が必要とされているのか見ていきましょう。
これに関しては、私たちが東京の施設職員からよく言われるのが「生活用品や消耗品がほしい」という声です。
ちょっと意外に思われるかもしれませんね。
でも、児童養護施設は子どもたちが生活する「家」のような存在ですから、ニーズが生活に密着した品目に集中するのは当たり前なのです。
すでに書いたように、自治体等からのお金の支給は、施設で必要なあらゆる支出をカバーする性質のものにはなっていません。
毎日使う生活用品が外部からの寄贈で入ってくれば、施設は生活用品に割り当てる予定だった予算を他の用途に回して、子どもの生活の質を上げたり、教育の機会を充実させることに使える可能性があるのです。

児童養護施設の職員の仕事の中心は家事だと言っても過言ではない、という声もありました。/ Copyright 2018 社会で子育てドットコム All rights reserved.
一般的に施設で寄贈を受け入れている代表的な物品を以下に挙げました。ただし、各施設や時期によってニーズは異なりますし、施設によっては中古品・使用済み品をお断りしている場合もあるかもしれません。
- 食品(ただし、製造者と製造日時または消費期限がわかるもの)
- 家電製品(ドライヤー、掃除機、炊飯器など。子どもの数が多い分、使用回数も多く、壊れやすい)
- おもちゃ(子どもの年齢に合ったもの)
- 書籍(子どもの年齢に合ったもの。マンガ、参考書を含む)
- 日用品(洗剤・石鹸、ボックスティッシュ、トイレットペーパー、歯ブラシなど)
- 衣類(サイズや性別が子どもに合っていることが条件)
- 寝具
- 自転車
「学用品」がリストに入っていないので、あれっ、と思った方もいらっしゃるかもしれません。
実は学用品は公費からのお金にもともと計上されている上に[1]、一度買ったら壊れるまで長く使い続けられるものもあるので、予算の中である程度やりくりができているようです。
物品寄贈の注意点
児童養護施設は子どもたちの生活空間なので、外部から届くものを何でも受け入れられるわけではありません。
あなたの自宅に知らない人から荷物が届いたらびっくりするのと同じように、施設も匿名の人から荷物が届いたらびっくりしてしまいます。
もし実際にモノを贈る場合は、事前に施設に問い合わせて、受け取ってもらえることを確認してください。
さて、物品の内容や分量について、2つ注意点があります。
外部からモノを持ち込む場合、子どもの健康と安全がきちんと確保される必要があります。口に入れたり肌に直接触れたりする物品の場合は特に注意が必要です。
食事に関しては、まず公費から出るお金の中に食費が含まれています。
大規模な園舎を持つ児童養護施設には栄養士や調理員がいて、子どもと職員の食の安全を責任を持って管理しています。
また、グループホームという戸建て住宅を利用した小規模養育の場合は、職員が家庭と同じようにキッチンに立って食事を作っています。
児童養護施設では子どもが集団で生活しているため、感染症のリスクに職員はとても敏感です。
食品を外部から持ち込む場合は、最低でも製造者・製造場所と製造日時(または消費期限)がわかっていないと受け取れないことが多いでしょう。
また、家庭やそれに類する衛生環境で調理した食品も、施設からは調理の実態が見えにくく、受け入れにくいです。仮に受け取っても、子どもに食べさせられません。
子どもが「自分のもの」にする品目は、子どもの人数分を揃えて寄贈しないと、子どもの間に不公平を生んでしまうおそれがあります。ケンカの種になってしまっては元も子もありません。
特におもちゃやお菓子を寄贈するときは、事前に施設に問い合わせて、望ましい分量を確認するようにしてください。
また、一般的に「家族みんなが使う」タイプの物品のほうが、公平性の問題が起こりにくいので、受け入れやすいです。例えば洗剤、ティッシュ、トイレットペーパーなどの生活用品です。
ただし、ひとり暮らしに必要な家具・家電製品などは、1つしかなくてもとても役に立つことがあるので、次の項目で説明します。
ひとり暮らしセットも必要
ひとり暮らしに必要な種類の物品は、施設内で使う以外に、もうひとつ大事な使い道があります。
子どもたちの基本的な衣食住は公費によって保障されていると書きましたが、これは子どもが施設にいる間に限った話です。
子どもたちは18歳(~20歳)になると施設を出なければなりません。
親元(実家)に帰れる子どももいますが、親や親族を頼れないケースも少なくなく、施設を出た後の生活には高いハードルがあります。
子どもが施設で使っていた身の回りの家具・調度品の多くが、公費で購入した施設の備品です。
備品ということは、子どもが施設を離れるとき、持ち出すことはできないということです。
実家から自立する場合とはかなり事情が異なるのです。
一方、子どもがアルバイトなどをして自費で買った物品(例えばスマホやゲーム機)は自分のものなので、施設を出るときに持って出られます。
また、就職や進学などの支度金という名目で、公費から8万1千円あまりが1度だけ支給されます[1]。
親の経済的援助が見込めない子どもの場合はさらに19万円あまりが上乗せで支給されますが[1]、この支給額だけでは一人暮らしを始めることはできません。
したがって多くの子どもが、高校生のあいだにアルバイトをして、(東京の場合は)100万円程度の貯金をしなければならない状況にあります。
こうした事情がある中、外部から施設に寄贈された物品は、公費と無関係に施設が取り扱いを決めることができます。つまり、新生活を始める子どもたちに持たせることができるのです。
ですから、家具、生活家電、寝具などは「自立準備」としてのニーズもあるのです。
ちなみに、子どもが施設を出るタイミングは主に3月後半の卒業シーズンで、生活用品はそれより前に確保しておく必要があります。
現在単身赴任中の方や、下宿中の学生の方は、ひとり暮らしを終えるとき、このことを思い出していただければと思います。
家具・家電製品は、粗大ごみとして捨てるのにもお金がかかりますよね。それほど使い古していない物品で、どうせ捨てるコストがかかるなら、最寄りの児童養護施設に問い合わせをしてみてはいかがでしょうか。
新生活を始める子どもを応援するチャンスかもしれません。
ニーズを取材して掲載しています
さて、社会で子育てドットコムでは、東京の児童養護施設に取材をし、具体的なニーズを聞き取って掲載しています。
カテゴリー「ニーズ紹介」の記事をご覧ください。
これらの記事で取り上げたニーズに関しては、社会で子育てドットコム編集部にお問い合わせいただければ、児童養護施設との連絡を仲介させていただきます。詳しくは各記事をご覧ください。
参考文献
- [1] 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」平成29年12月( リンク )

社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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