災害大国の日本。親が亡くなってしまった場合、あるいは農地の損害などによって親の収入が大きく落ち込んでしまった場合、子どもの世話を誰が引き受けるのか。
災害の他にも、交通事故や病気など、親が子育てできなくなる理由はいろいろ考えられます。
そんな時、子どもを親族が預かってしばらく世話をする、というケースは少なくないのではないかと思います。
親族が里親になる制度がある!
実は、親族の子を預かって育てる場合、「親族里親」という制度を利用できるかもしれません。
この制度を利用すると、自治体から子どもの生活費などが支給されます。
親族に十分な経済的ゆとりがなくても、親族里親になることで家計の負担が減り、安心して子どもを引き受けられるケースもあるはずです。
この制度は2002年度に始まりました。
2017年度末の時点で、親族里親に登録している人は全国で526世帯(そのうち実際に子どもを預かっている人は513世帯)で、親族里親の元で育てられていた子どもは744人でした[1]。
あまり知られていないこの親族里親の制度。今回のコラムは、この制度のことを詳しく見ていきます。
親族里親になるための要件は?
児童福祉法などの規定により、子どもを親族里親に委託するための要件が定められています。
厚生労働省による資料[2][3]をもとに、少し噛み砕いて解説していきます。
その子どもの扶養義務を負う親族であること。
「扶養義務」は民法で規定されていて、具体的には子どもの直系血族(祖父母など)と兄弟姉妹に扶養義務があります。
ということは、おじ(伯父・叔父)やおば(伯母・叔母)は原則として扶養義務がないということになりますが、扶養義務のない親族であっても、養育里親という別の制度に申請する形で、子どもを預かることができます。
なお、厚労省のガイドライン等を読む限り、配偶者がいない人にも親族里親への門戸は開かれているようです。
その子どもの両親・保護者が、死亡、行方不明、拘禁、病気などの理由で、養育ができないこと。
親族里親を含めた里親制度は、保護者の生死に関わらず適用されます。
ただし、保護者がいる(死亡していない)子どもを親族里親で預かる場合、子どもを児童相談所が保護し、児童相談所が親族里親に委託する、という形をとります。
実親から親族里親に直接子育てをお願いするのではない点に注意が必要です。
児童相談所の措置という形をとることで、子どもの生活費が公費から支給されるようになります。
なお、親が統合失調症や気分障害などの精神疾患を抱えている場合も、基本的にこの要件2を満たします。
その子どもの養育についての理解・熱意と、児童に対する豊かな愛情を持っていること。
里親本人が判断能力の不十分により成年被後見人・保佐人をおいていないこと。
里親本人またはその同居人が禁錮以上の刑に処せられたことがないこと、児童福祉法や児童買春・児童ポルノ禁止法などの規定により罰金の刑に処されたことがないこと、および児童虐待など子どもの福祉に関し著しく不適当な行為をしたことがないこと。
この3つに関しては、当たり前のことが書いてあるだけ、という感じでしょうか。
なお、自治体によっては追加の独自規定を設けている場合もあるので、親族里親の申請を検討する際は地元の自治体・児童相談所に確認してください。
子どもの年齢や、里親の期間に条件はないの?
新しく里親になる場合、引き受ける子どもの年齢は原則として18歳未満です。
里親委託は「子どもが満18歳になるまで」が原則なのですが、高校への通学や大学進学などの理由があれば、児童相談所の判断で22歳の年度末まで延長することができます。
原則18歳までというルールは近年ではそこまで厳格に運用されておらず、児童養護施設や一般の里親で育てられている子どもも、進学などの理由で委託延長になっているケースが増えています。
また、親族里親になる期間は短期でも長期でもOKですが、最終的な判断は児童相談所・自治体の判断となりますので、窓口で相談してください。
子どもの保護者が養育に復帰できる状況になれば、親族里親の解除を児童相談所に申し出て、委託解除することができます。
お金の支援は受けられる?
里親は児童相談所から子どもの養育を委託されている立場なので、公費からお金の支援を受けることができます。
親族里親には、子どもの食事や衣服などの費用に充てるための「一般生活費」として毎月定額が支給されます。
具体的な金額は年度によって若干の変動がありますが、平成29年度の場合は委託児童1人あたり月額 50,570円が支給されました(乳児の場合は上乗せされて 58,310円)[1]。
この他に、幼稚園を含めた教育費、入学・進学・就職の支度費、医療費などが必要に応じて支給されることになっています(詳しくは地元の自治体・児童相談所に問い合わせてください)。
なお、より一般的な里親のタイプである「養育里親」(養育家庭)の場合は、一般生活費に加えて「里親手当」も支給されるのですが、親族里親の場合「里親手当」の支給はありません。
(ただし扶養義務のない親族が養育里親になっている場合は「里親手当」も支給されます。)
どこに申請する?
親族里親の相談や申請は、地元の自治体や児童相談所で行います。
政令指定都市と金沢市・横須賀市にお住いの方は、県ではなく市の窓口・児童相談所に問い合わせる必要があるので注意してください。
自治体独自の要件があったり、この記事で紹介した内容が古くなっていたりする可能性があるので、申請を検討する方は窓口に問い合わせて確認してください。
厚生労働省による平成29年度の全国の児童相談所の一覧
東京都による案内
横浜市による案内
川崎市による案内
横須賀市による案内
神奈川県による案内
さいたま市による案内
埼玉県による案内
千葉市による案内
千葉県による案内
その他の地域も、自治体のホームページ等に案内があります。
親族で引き受けられない場合は?
親族里親の適用が難しいなどの理由で、親族で子どもを引き受けられない場合には、子どもは児童相談所でまず一時保護され、その後は一般の里親(養育里親、専門里親)に委託されるか、児童養護施設・乳児院といった児童福祉施設に委託されて、育てられることになります。
里親・施設ではもちろん子どもの衣食住は公費によって保障されていますし、普通に学校に通うこともできます。
また、親や親族が里親・施設にいる子どもと面会することは可能です(子どもに危害を加えるおそれがあると判断された場合などを除く)。
おわりに
ある里親制度に関する国際調査[4]によると、2010年の韓国では祖父母やおじ・おばによる里親が一般的な里親よりはるかに多く、子どもの人数ベースで10倍以上あったとのことです。
日本の親族里親は、里親全体の1割程度(子ども人数ベース)[1]。要件を満たしているのに、自治体に申請をしていないケースが多いのではないかとの指摘もあります[5]が、実態はよくわかっていないようです。
いずれにせよ、もっと知名度が上がってほしいこの「親族里親」の制度。
災害や事故への備えのひとつとして頭の片隅に入れておくと、いざというとき役に立つかもしれません。
【2018年8月22日追記】この記事のタイトルは「親族が里親になる制度がある!――親族の子を引き取る場合、自治体から公費の支援が受けられるかも」から変更され、イメージ画像を差し替えました。
参考文献
- [1] 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」平成29年12月( リンク )
- [2] 厚生労働省「里親制度の運営について」平成25年6月( リンク )
- [3] 厚生労働省「里親委託ガイドラインについて」平成24年3月( リンク )
- [4] 平田美智子「韓国の里親制度―親族里親と民間の里親支援機関―」、開原久代 ほか『社会的養護における児童の特性別標準的ケアパッケージ(被虐待児を養育する里親家庭の民間の治療支援機関の研究) 平成23年度 総括・分担研究報告書』平成24年3月( リンク )
- [5] 毎日新聞「論点:里親制度推進の課題」2016年9月21日 東京朝刊( リンク )
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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