厚生労働省は7月6日、虐待や経済的事情などで親元で暮らせない子どもへの代替養育について、都道府県等に国の方針に沿って計画を見直すよう求める通知を出しました。
6月末に通知内容がまとまったことを毎日新聞、日本経済新聞などが伝えていました。
現在、虐待や経済的事情などで親元で暮らせない子ども(要保護児童)への代替養育は、主に児童養護施設・乳児院と里親が担っています。
2017年3月末の時点で、児童養護施設や乳児院で暮らす子どもが29,250人、里親やファミリーホームなどの家庭で暮らす子どもが6,546人となっています[1]。里親・ファミリーホームが占める割合(里親等委託率)を求めると 18.3% になります。
【2020年3月17日追記:「里親等委託率」については別の記事で詳しく解説しています。】
また、特別養子縁組は里親とは別の制度で、元の親との親子関係を解消し、養親と子どもが法律上の親子となるものです。こちらは2016年度の成立件数が495件でした[1]。
子どもの代替養育などの措置を決める権限は都道府県・政令指定都市等が持っているため、国はそれらの自治体に通知を出すなどして政策を実施します。
厚生労働省が今回出した通知は、都道府県・政令指定都市に対し、「7年以内に就学前の子どもの里親委託率を75%まで引き上げる」などの国の目標を念頭に置きつつ、各地の実情に合った計画を策定するよう求めるものです。
施設や家庭で代替養育を受ける子どもの数
国は家庭養育の割合を2027年ころまでに50%に引き上げる目標を掲げましたが、都道府県等にそのまま強制はしないことになりました。
特別養子縁組が成立した子どもの数
国は2024年度までに年間1,000件の成立を目指す目標を掲げていますが、都道府県等に強制はしないことになりました。
これまでの経緯
厚生労働省の有識者会議が2017年8月に発表した「新しい社会的養育ビジョン」では、2016年の児童福祉法改正に合わせる形で子育て支援全般の方向性が示され、その中で代替養育についても根本的な見直しが求められていました。
具体的には、子どもたちにより家庭的で永続的な養育環境を提供するために、以下の方向性と目標が掲げられました。
- 要保護児童の受け皿として、まず特別養子縁組を優先し、次に里親、最後に施設
- 特別養子縁組は、およそ5年以内に年間1,000件以上の成立を達成する
- 3歳未満の乳幼児は、およそ5年以内に里親委託率 75%を達成する
- 3歳~就学前の子どもは、およそ7年以内に里親委託率 75%を達成する
- 学童期以降の子どもは、およそ10年以内に里親委託率 50%を達成する
- 家庭養育の原則を徹底するため、今後は施設への子どもの委託を原則停止する
- 児童養護施設は機能を転換し、小規模な里親支援・子育て支援の拠点として地域に分散する。または、ある程度以上のケアニーズの要保護児童だけを対象に、小規模な代替養育を提供する。
この「ビジョン」の内容については、児童相談所や児童養護施設の団体などが「性急すぎて現場が混乱し、行き場を失う子どもが出るおそれもある」「施設への偏見だ」などと反発し、都道府県からは国に財源確保を求める声が上がるなど、具体的な政策に反映させる過程で議論は紛糾していました。
最終的に厚生労働省は、「ビジョン」の里親委託率や特別養子縁組の数値目標を念頭に置くことを都道府県等に求めつつ、各地の実情を勘案して数値目標と達成期限を定めるよう求めています。
なお数値目標達成に関しては、目標達成のために機械的に里親委託等が行われるべきではなく、個々の子どもに対するアセスメントの結果に基づいて、子どもの最善の利益になるような措置を求めています。
「ビジョン」が掲げた児童養護施設の将来像のうち、「施設への子どもの委託を原則停止」は今回の通知で求めていない一方、施設の機能転換・小規模分散化は計画に盛り込むよう、都道府県等に求めています。
また、児童相談所の改革や市町村レベルの子育て支援、里親支援機関(フォスタリング機関)の養成についても、「ビジョン」に沿う形で計画に盛り込むよう求めています。
参考文献
- [1] 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて」平成29年12月( リンク )
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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