2020年代の社会的養育を描く「推進計画」、各自治体でまとまる――里親委託の目標値は国と大きなズレ

2019年度末、全国の自治体で、2029年度までの「社会的養育」の取り組みを定めた推進計画が策定されます。
政府が掲げた「3歳未満の里親等委託率を2024年度までに75%に引き上げる」という目標については、国の目標以上の目標値を設定した自治体は6か所に留まり、9割の自治体が国より低い目標値を設定する見通しです[1a-1c,2,3]。


画像はイメージ。/ 社会で子育てドットコム編集部(Photo by josemiguels, Pixabay

厚生労働省は、2016年の児童福祉法改正も踏まえて、自治体ごとに2029年度までの「社会的養育」の取り組みと目標を設定し、「推進計画」として2019年度末までにまとめるよう求めていました[4]。

この「社会的養育推進計画」では、里親委託の推進や、子どもの権利擁護に関する取り組み(アドボカシーなど)、一時保護の改革施設や里親を出た後の自立支援など、「社会的養育」のための様々な施策が示されています。

里親等委託率の数値目標

様々な理由で親と暮らせない子どもは、基本的に里親や少人数の「ファミリーホーム」、児童養護施設・乳児院で養育されています。
「里親等委託率」は、そうした子どもたちのうち、里親とファミリーホームに預けられている人数の割合を表します(詳しくはこちら)。

日本の里親等委託率は2018年度末の時点で20.5% となっています[5]。
世界的に「施設から里親へ」という潮流が強まっている中、日本は施設に預けられる子どもの割合が高いとされ、政府は国連子どもの権利委員会などから是正を求められています[6a,6b,7]。

2016年に児童福祉法等が改正され、子どもが権利の主体であることと、原則として家庭養育(家庭養護)を優先することが明記されました。
政府は家庭養育優先の原則を踏まえて、2017年に「里親等委託率」の数値目標を掲げました[4]。

  1. 3歳未満は2024年度までに75%に
  2. 未就学児全体で2026年度までに75%に
  3. 学童期以降は2029年度までに50%に

とはいえ、里親や児童養護施設などに子どもを預ける権限は国にはなく、児童相談所を設置する自治体が主体となっています(児童福祉法[8])。
厚生労働省は児童相談所を設置する各自治体に対し、国の目標を念頭に置いて、推進計画を策定するよう求めていました[4]。

厚生労働省が2020年3月5日時点で集計したところ、国の目標値以上の目標を設定した自治体は6か所に留まり、9割の自治体は国より低い目標値を設定していました[1a-1c,2,3]。

数値目標が争点化

この数値目標は、厚生労働省が新たに設置した有識者会議がまとめた報告書「新しい社会的養育ビジョン」に基づいています[9]。
急激な転換を求める目標を掲げたことと、メディアが目標値に焦点を当てて報じたこともあって[10]、数値目標の是非が大きな争点になりました。

家庭養育の原則が本格的に実施されると歓迎する声が上がる一方[11,12]、懸念の声も上がりました。
児童養護施設で作る協議会や自治体(児童相談所)などからは、「ビジョン」の理念や方向性を評価しつつ、数値目標については「現実と乖離している」などと強く反発する声が相次ぎました[13a,13b]。

結局、「ビジョン」がまとまってから1年近く経った2018年7月になって、厚生労働省はようやく自治体に目標策定を求める通知を出しました[4]。
厚生労働省は、数値目標を自治体に強制はせず、「これまでの地域の実情を踏まえ」、国の数値目標を「十分念頭に置き」、目標と達成年限を設定するよう求めるに留めました。

計画を策定する期限が迫った2019年度末、各地の目標設定が低調であることが明らかになり、「ビジョン」を取りまとめた有識者会議の委員長らは「危機的な低さ」だとして再検討を訴えています[1c,3]。
目標値が低くなる背景について、自治体の意識の低さや、長年協力してきた施設への配慮がある、との見方もあります[1a,2]。

一方、専門家の間では、数値目標が一人歩きしないよう、裏付けや検証を求める声も上がっています[14,15]。

自治体から見た懸念点

毎日新聞は、この推進計画について全国の自治体にアンケートを実施しました[1a]

それによると、長野県は「措置費など国の制度設計が明確に示されない中で数値目標を設定することは非常に不安」と回答しました。
里親に関する費用の多くは自治体と国で負担していて、例えば里親手当などは国が半分を負担しています。
政府は委託率の数値目標を期限付きで掲げた一方、財源については安定的な確保に向けて「最大限努力していく」とするに留めています[4]。

また、「数値目標に追い立てられて拙速に事を運ぶと、委託後の不調が急増する懸念がある」という浜松市のコメントも紹介されています。
子どもが里親とうまくいかない場合、委託を解消して他の里親や施設に預けることもあります。
里親登録が増えれば自然と里親への委託も増えるというものではなく、里親のトレーニングや、子どもとの丁寧なマッチング、委託した後のサポートを含めた包括的な支援が必要とされています。

親元で暮らせない子どもはどこで育てられているか

自治体別、里親等委託率が高い順。このグラフの「里親」と「ファミリーホーム」の割合を足したものが「里親等委託率」。全国の里親等委託率は 20.5%。

出典:福祉行政報告例(2018年度末時点)[5]
グラフ作成:社会で子育てドットコム編集部

子どもの数が最多の東京都では…


東京都庁舎。/ Photo by MiNe (posted on flickr)

東京都は、里親等委託率の算出対象となる子どもが3,800人あまりいます(2018年度[5])。
全国の対象児童の1割以上という突出した人数ですが、委託率は全国水準を下回る14.8%となっています(2018年度)。

都は、今回の計画策定にあたって、都の児童相談所を通じて調査を行いました[16a]。
それによると、施設(児童養護施設・乳児院)に入所している子どものうち、里親・ファミリーホームへの委託が「適していなかった」ケースが87%(2年間で6,372人)とされました。

適していなかった理由の1位は、家庭復帰に向けて親子交流の支援などを施設で進めていることでした(24%)。
施設であれば、子どもと実親の関係を調整し、里親委託や家族再統合を支援するための「家庭支援専門相談員」(ファミリーソーシャルワーカー、FSW)が配置されています。
児童相談所が、家庭復帰を手厚く支援するために施設をあえて選んでいることが伺えます。

また、理由の2位は、子ども自身が施設入所の継続を希望したことでした(16%)。
その大半は学齢児で、継続を希望する理由は「友人・学校関係」や「実親方との関係」、施設での「自立等支援」などでした。

一方、里親等への委託が「適していた」のに委託されていなかったケースも全体の13%(2年間で953人)ありました。
その理由で最も多かったのは、「実親の同意が取れなかった」で、46% を占めました。

都は、家庭復帰を目指すケースであっても工夫次第で里親委託の可能性が見込めるとしていますが[16a]、いずれにせよ都の現状認識と政府の目標値の間に大きな乖離があることがわかります。
結局、都は2029年度に里親等委託率を 37.4% にするとの目標を設定しました[16b]。

委託率が大きく増えた自治体も

自治体の中には、これまでの取り組みで里親等委託率が大きく増えたところもあります。
新潟市、さいたま市、福岡市、静岡市などは、2007年度からの10年間で委託率が25%以上増加しました[17]。(全国の委託率は同じ期間に10%から19.7%に増加。)

厚生労働省によると、これらの自治体では、里親の広報・リクルートや支援をする際に、NPOや施設、市町村などと連携をし、相互理解や成功体験の共有ができるよう工夫をしたということです[17]。

例えば福岡市は、2005年度に10.6%だった里親等委託率が、12年後の2017年度には43.8%にまで高まりました[18]。
2018年度末時点で179人の子どもが、里親やファミリーホームの家庭で育てられていて、施設に入所する子どもの数は徐々に少なくなってきました。

自治体だけで里親委託に取り組むのではなく、NPOなどの力を取り入れて市民の協力を増やしたことで、「社会や地域で子どもを育てる」という気運につながったようです[19]。

福岡市は、今回の推進計画で国の目標値を上回る水準の目標を設定する見通しです[18]。


画像はイメージ。/ Photo by np&djjewell (posted on flickr)

2020年4月から、各地の自治体で「社会的養育」に向けた取り組みがスタートすることになります。
民間も含めた地域のリソースをどう巻き込むか、市民がどう関わっていくのかも、ポイントの1つになるでしょう。
「社会的養育」を実現するために、社会の関心と関与が必要です。

参考文献

社会で子育てドットコム編集部
社会で子育てドットコム編集部

「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。