「里親等委託率」とは、「親と一緒に暮らせない子どもがどこで暮らしているか」に関する指標です。
この記事では、「里親等委託率」の定義と、そこから読み取れるもの、読み取れないものについて解説します。
里親等委託率の定義
「里親等委託率」は、「家庭養護」と「施設養護」のバランスを把握するための指標です。
「家庭養護」も「施設養護」も、虐待や貧困などの理由で親と一緒に暮らせない子どもを受け入れ、育てることを指します。
このうち「家庭養護」は、家庭で子どもを受け入れて育てることを指し、「里親」と「ファミリーホーム」が該当します。
「里親」は子どもを原則4人まで預かる事ができます。養子縁組とは異なる制度です。
「ファミリーホーム」は、ホームに住む大人に加えて「養育補助者」を置いて3人体制をとり、5~6名までの子どもを預かります。
一方、「施設養護」の例として「児童養護施設」と「乳児院」があります[2a]。
「児童養護施設」は概ね2歳~18歳まで、「乳児院」は0歳~2歳くらいまでの子どもを預かって育てています。
この「家庭養護」と「施設養護」のバランスを、子どもの人数比によって把握するのが「里親等委託率」です。
日本の「里親等委託率」は、下記の計算式で算出することが一般的です。
この計算式で日本の里親等委託率を計算すると、2017年度末の時点で19.7%となっています[2a]。
日本の里親等委託率の推移
なぜ注目されているか
里親等委託率は、国や地域ごとの家庭養護と施設養護のバランスを把握するための指標として使われています。
子どもの権利条約は、子どもは「家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべき」としています[4]。
また、国連の指針は、原則として家庭養護を活用することを求め、施設養護を特定の条件を満たす場合に限るよう、各国に求めています[5a,5b]。
その背後にある医学的・心理学的な知見も大切ですが、この記事では触れません。
日本は先進諸国の中でも家庭養護が低調で、施設養護に著しく片寄っているとされ、子どもの権利の観点から問題だと指摘されています[2a,3]。
例えば国連子どもの権利委員会は、日本の施設偏重が問題であると指摘し、里親などの家庭養護を原則とするよう、政府に勧告しています[6a,6b]。
これを受けて日本では、2016年に児童福祉法が改正され、子どもが権利の主体であることと、家庭での養育を優先させることが明記されました[1a]。
2017年には有識者会議が「新しい社会的養育ビジョン」をまとめ[1b]、政府は里親等委託率の数値目標を掲げました(下図)[1a]。
日本政府が掲げる目標
各自治体は、政府の目標を踏まえて目標を設定し、2020年度から2029年度にかけて取り組んでいくことになっています[1a]。
ただし、政府は「里親等委託率の数値目標達成のために機械的に措置が行われるべきものではない」としていて、子ども一人ひとりのアセスメントの結果や子どもの最善の利益を踏まえた対応をとるよう求めています[1a]。
里親等委託率は「社会的養護」の全体像ではない
里親等委託率からは読み取ることができないポイントもあるので、注意が必要です。
里親等委託率の算出方法で対象になっているのは、児童養護施設・乳児院に入所している子どもと、里親・ファミリーホームに委託されている子どもだけです(約3万5千人)。
一方、家庭で適切な養育を受けることが難しい子どものための「社会的養護」には、他の施設も含まれます。
具体的には、自立援助ホーム、児童心理治療施設、児童自立支援施設、母子生活支援施設の4種類の施設です。
これら4施設で合わせて約1万人の子どもが暮らしていますが、「里親等委託率」の対象にはなっていません。
また、児童相談所が一時保護している子ども(一時保護所にいる子どもや施設・里親などに「一時保護委託」されている子ども)の数も、里親等委託率には反映されていません。
さらに、親と一緒に暮らせない子どもの養子縁組についても、家庭養護の一部という位置づけ[2b]に変わりつつありますが、今のところ里親等委託率には算入されていません。
子どもの出入りがあることに注意
子どもはひとつの施設や里親のもとにずっと留まっているとは限りません。
施設・里親にいた子どもが家庭に戻っていくこともあれば、施設間や施設・里親の間で移動する場合もあります(措置変更)。
施設での暮らしに馴染めない子どももいますが、逆に里親のもとでうまくいかず、施設に戻っていく子どももいます(里親不調)。
里親等委託率は、こうした子どもの移動・出入りの程度を反映していません。
特に、子どもが複数の里親のもとを転々とするケースがどれくらいあるのか、里親等委託率からは読み取ることができません。
里親等委託率が上がることと、子どもが特定の里親のもとで安定して暮らせていることはイコールではないのです。
この分野で先進的とされるイギリスなどの欧米諸国でも、「里親等委託率」は高いですが[7a,7b]、子どもがいくつもの里親を転々とするケースがあり、問題になっています[8a,8b]。
指標や数字が一人歩きしないように
子どもの最善の利益を考える時に、子どもの生活環境の選択肢が多くあるに越したことはないはずです。
もちろん、可能な限り家庭的な環境を確保する必要がありますが、施設によっては家庭的な環境の整備が進んでいるところもあります(個室の整備や、職員と子どもの比率が1:1など)。
発達特性によって、集団生活が大きな負担になる子どももいます。逆に、専門的なケアが必要で家庭での養育が難しい場合もあります。
「里親委託率を上げること」を第一に考えるのではなく、1人ひとりの子どもに適した養育環境が選ばれることが何より大切です。
また、数値目標は、里親をしている人や自治体だけの問題ではありません。里親を取り巻く関係機関や社会全体の態勢が十分であるかも問われます。
参考文献
- [1a] 厚生労働省子ども家庭局「「都道府県社会的養育推進計画」の策定について」平成30年7月6日付(https://www.mhlw.go.jp/content/000477822.pdf 2020年2月28日閲覧)
- [1b] 厚生労働省 新たな社会的養育の在り方に関する検討会「新しい社会的養育ビジョン」平成29年8月2日付(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000173888.pdf 2020年2月28日閲覧)
- [2a] 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課「社会的養育の推進に向けて(平成31年4月)」平成31年4月付(https://www.mhlw.go.jp/content/000503210.pdf 2020年2月28日閲覧)
- [2b] 厚生労働省雇用均等・児童家庭局「里親委託ガイドライン」平成23年3月30日付(https://www.mhlw.go.jp/content/000482645.pdf 2020年2月28日閲覧)
- [3] ヒューマン・ライツ・ウォッチ「夢が持てない 日本における社会的養護下の子どもたち」2014年5月1日付(https://www.hrw.org/ja/report/2014/05/01/256544 2020年2月28日閲覧)
- [4a] UNICEF(United Nations Children’s Fund)「Convention on the Rights of the Child」掲載年不明(https://www.unicef.org/child-rights-convention/convention-text 2020年2月28日閲覧)
- [4b] 日本ユニセフ協会「「子どもの権利条約」全文」掲載年不明、2020年2月28日閲覧 https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig_all.html
- [5a] UN General Assembly「Guidelines for the Alternative Care of Children : resolution / adopted by the General Assembly」2010年2月24日付(https://www.unicef.org/protection/alternative_care_Guidelines-English.pdf 2020年2月28日閲覧)
- [5b] 厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課「国連総会採択決議64/142. 児童の代替的養護に関する指針(厚生労働省雇用均等・児童家庭局家庭福祉課仮訳)」掲載年不明(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/syakaiteki_yougo/dl/yougo_genjou_16.pdf 2020年2月28日閲覧)
- [6a] UN Committee on the Rights of the Child (CRC)「Concluding observations: Japan」2010年6月20日付(https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CRC%2fC%2fJPN%2fCO%2f3&Lang=en 2020年2月28日閲覧)
- [6b] UN Committee on the Rights of the Child (CRC)「Concluding observations on the combined fourth and fifth periodic reports of Japan」2019年3月5日付(https://tbinternet.ohchr.org/_layouts/15/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CRC/C/JPN/CO/4-5&Lang=En 2020年2月28日閲覧)
- [7a] 日本社会事業大学社会事業研究所「社会的養護制度の国際比較に関する研究 調査報告書 第3報」平成28年7月付(https://www.jcsw.ac.jp/research/kenkyujigyo/roken/files/kadai9-3.pdf 2020年2月28日閲覧)
- [7b] 開原久代 ほか「家庭外ケア児童数及び里親委託率等の国際比較研究」、東京成徳大学『社会的養護における児童の特性別標準的ケアパッケージ(被虐待児を養育する里親家庭の民間の治療支援機関の研究) 平成23年度 総括・分担研究報告書』平成24年3月付(https://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201101042A 2020年2月28日閲覧)
- [8a] 中日新聞「あの人に迫る 渡辺守 NPO法人「キーアセット」代表」2018年6月22日紙面掲載(https://www.chunichi.co.jp/article/feature/anohito/list/CK2018062202000245.html 2020年2月28日閲覧)
- [8b] 池谷和子「アメリカにおける里親制度」東洋法学 57(2) ページ81-90(http://id.nii.ac.jp/1060/00006470/ 2020年2月28日閲覧)
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
関連記事
最近の記事
- メディア掲載:「世界の児童と母性」89号―「コロナ禍で顕在化した子どもたちの ICT 環境整備の課題」
- ドイツ銀行グループ様の母子生活支援施設向け助成を実施しました
- ライツオン・チルドレンより、新年のご挨拶
- 経過報告(2):東京の児童養護施設10か所にパソコン72台を贈りました
- 「児童福祉施設でITを活用するための情報サイト」を公開しました
- 「児童養護施設にパソコンを贈る取り組み」を千葉・埼玉・神奈川の3県に拡大します
- 児童養護施設などのオンライン授業対応、国が補正予算で補助【5月7日追記】
- 経過報告(1):東京の児童養護施設20か所にパソコン125台を贈りました
- 東京の児童養護施設、オンライン学習対応に苦慮――緊急アンケート結果
- 2020年代の社会的養育を描く「推進計画」、各自治体でまとまる――里親委託の目標値は国と大きなズレ
人気の記事
- 表参道駅近くに新設計画の児童相談所などの複合施設、地元で反対の呼びかけに直面【12月19日追記】
- 児童養護施設にモノを贈るときのポイント――何が喜ばれる?注意すべき点は?
- 「母子生活支援施設」ってどんなところ?(前編)――DVシェルター以上の役割
- 里親と養子縁組を混同しないために、知っておきたい4つのこと
- 児童養護施設で暮らす子どもを短期間預かり、家庭経験を――「フレンドホーム」という仕組み
- 災害や病気で子育てができなくなった!→祖父母やきょうだいが子どもを引き取る場合、自治体から金銭的支援が受けられます
- 特別養子縁組の対象拡大、2020年4月から施行
- これって子ども虐待かも…と思ったとき、連絡するのはここ! 電話番号「189」
- 子ども虐待対応件数、平成30年度は16万件――前年度から20%増で過去最多
- 一時保護中のストレスや不安を少しでも軽減させるために――「一時保護委託」の環境整備
社会的養護と「里親等委託率」
里親・ファミリーホーム
児童養護施設・乳児院
一時保護所
自立援助ホーム
児童心理治療施設
児童自立支援施設
母子生活支援施設
一部の養子縁組
図作成:特定非営利活動法人ライツオン・チルドレン / Copyright 2017-2020 特定非営利活動法人ライツオン・チルドレン All rights reserved.