東京都目黒区で5歳の女の子が虐待死した事件を受け、政府は7月20日に関係閣僚会議を開き、子ども虐待の防止に向けた緊急対策を決定しました。
NHKニュース、共同通信など報道各社が伝えました。
政府の児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議は、目黒区の事件を受けて6月に設置されたもので、20日が2回目の会合でした。
今回決定された緊急対策は6つの柱からなっています。この記事では、それぞれの柱について解説します。
児童相談所(児相)の支援を受けている家庭が転居した際の引き継ぎルールを見直し、全国ルールとして徹底するとしています。
- 全ての事例について、緊急性の判断の結果(虐待に起因する外傷等がある事案など)を事例に関する資料とともに、書面等で移管先へ伝えること
- 緊急性が高い場合には、原則、対面等で引き継ぎを実施すること
- 移管元の児童相談所は引き継ぎが完了するまでの間、児童福祉司指導等の援助を解除しないこと。移管先の児童相談所は援助が途切れることがないよう、速やかに移管元が行っていた援助を継続すること
報道によると、目黒区の事件では香川県から東京都に引っ越してきた後に虐待がエスカレートしたとみられており、児童相談所同士の情報共有のあり方に関心が高まっていました。
今回の緊急対策では、全国統一の引き継ぎルールをすべての事例について適用することで、再発防止が図られています。
現行のルール「通告を受理した後、原則48時間以内に児童相談所や関係機関において、直接子どもの様子を確認する」を改めて徹底するとしています。
またこれに加えて、子どもと面会ができず安全確認が出来ない場合には、立入調査を実施すること、その際必要に応じて警察へ援助要請することを新たに全国ルールとして策定するとしています。
なお現行の制度でも、児童相談所は法律に基づく強制的な立入調査の権限を持っており、さらに必要に応じて警察官の立ち会いも要請できることになっています。今回の緊急対策ではしくみを新設するのではなく、既存のしくみをより徹底して運用していくことを目指すようです。
国の現在の指針(児童相談所運営指針 平成30年7月20日)では、虐待の通告があった場合などは子どもを直接目視して安全確認を行うことが「基本」と規定されています。また、安全確認の期限については、自治体が定める時間内に実施しなければならないと規定されているものの、離島など各地域の実情を考慮して、48時間以内とすることが「望ましい」との表現になっています。
児童相談所と警察との間で必ず共有しなければならない情報を以下のように定め、共有化を全国ルールとして徹底するとしています。
- 虐待による外傷、ネグレクト、性的虐待があると考えられる事案などの情報
- 通告を受理した後、48時間以内に児童相談所や関係機関において安全確認ができない事案の情報
- 虐待があるなどとして子どもを一時保護・施設入所などしていた場合で、そうした措置が解除されて家庭復帰することになった事案の情報
目黒区の事件を受けて、埼玉県などが虐待事例の情報を県警と全件共有する方針を示しています。また高知県などは目黒区の事件より前から全件共有を始めていました。
今回国が発表した資料には「全件」やそれに類似する表現は使われておらず、心理的虐待のみが疑われる事例は共有範囲に含まれていないようにも読めます。
また、同資料によると、各地の児相(自治体)と警察の情報共有の実態については、国が今後把握・検証するとされています。
子どもの安全確保を最優先とする観点から、以下のポイントを全国ルールとして徹底するとしています。
- 「リスクアセスメントシート」を活用するなどして虐待リスクを客観的に把握し、リスクが高い場合には一時保護などを躊躇なく実施すること
- 一時保護などの解除や家庭復帰の判断にあたっては、保護者支援の状況や地域の支援体制などについてチェックリスト等により客観的に把握しておくこと
- 解除後は、児童福祉司指導や地域の関係機関による支援などを行い、進捗状況を関係機関で共有すること、リスクが高まった場合には躊躇なく再度一時保護するなど、適切に対応すること
乳幼児健診未受診や、未就園、不就学などにより関係機関が安全を確認できていない子どもの情報を、9月末までに市町村において緊急把握するとしています。
把握した子どもについて、速やかにその状況の確認を進め、確認結果は国において把握・公表するなどとしています。
厚労省は定期的に有識者会議を開催して過去の虐待死事件を検証した報告書をまとめています。
その中で、虐待死を起こす親子に比較的多い特徴として、妊婦検診を受けていない、母子手帳の発行を受けていない、乳幼児検診を受けていないなどのポイントが挙げられています。
また目黒区の事件では、5歳の女の子は幼稚園・保育園に通っていなかったことがわかっています。
2016年度に策定した「児童相談所強化プラン」の実施期間は2019年度までとなっています。
このプランの見直しを前倒しして新プランを年内に策定し、2019年度から2022年度にかけて実施するとしています。
- 児童相談所の専門職「児童福祉司」について、2022年度までに約2,000人の増員を図る。児童福祉司一人あたりの業務負担を減らし、地域における里親養育支援や市町村支援を強化できるよう、児童福祉司の配置基準を見直す。
- 児童相談所の児童心理司、保健師、弁護士の配置や、一時保護所の職員体制についても見直す。
- 市町村の相談体制を強化するため、国は各地の「子ども家庭総合支援拠点」の設置を促進したり、「要保護児童対策地域協議会」の調整機関職員の配置を支援したりする。
今回の緊急対策に合わせて新プランの案が公表されており、年内に最終決定するとしています。
「児童福祉司」は児童相談所に配置されている専門職で、親や子どもの相談に乗り、必要に応じた支援をしたり、虐待や非行などのケースに必要な措置を講じたりしています。
2017年4月1日時点の児童福祉司は3,253人で、2,000人の増員が実現すれば1.6倍という大きな伸びになります。
今回の緊急対策の報道において、NHKニュースWEBや全国紙の多くが見出しに取り入れたのが上記「児童福祉司を2,000人増員」の部分でした。
ただ、児童福祉司は高い専門性が求められ、養成のしくみを充実させることが必要になってくるとの指摘も出ています。
【7月26日追記】2,000人増員については、別の記事でグラフ付きで解説しています。
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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