児童虐待の全国緊急点検の結果が公表――長期欠席で虐待のおそれが否定できない子どもが1万2,545人【4月27日更新】
- 2019年3月30日
- 社会で子育てドットコム編集部
千葉県野田市で小学4年生の女の子が虐待死した事件を受けて、政府は児童相談所が在宅で対応している子どもや学校を長期欠席している子どもの緊急点検を実施し、3月28日に点検結果を明らかにしました。
学校の点検では1万2,545人について「虐待が否定できない」などとして、児童相談所・警察などに情報共有がされました。
NHKニュースなど報道各社が報じました[1-6]。
【4月27日更新 政府は4月26日に、4月8日までの追加調査の結果を公表しました。これを受けて、本記事の本文と図表を加筆修正しました。】
千葉県野田市で小学4年生の女の子が虐待死した事件を受けて、政府は厚生労働省と文部科学省の合同プロジェクトチーム(PT)を設置していて、3月28日の会合で緊急点検の結果が報告されました。
児相を通じた緊急点検の結果
児童相談所(児相)は、子どもを保護者から引き離して一時保護する他に、子どもを家庭に留め、定期的に家庭訪問をするなどして保護者を指導することができます(児童福祉司指導の措置)。
今回は、3月8日までの約1か月間に全国の児相で在宅対応となっていた子ども3万7,806人とその保護者を対象に、児相が直接面会を試みて、安全確認を行いました。
その結果、3万5,180人(93%)と面会して安全が確認できたものの、2,626人(7%)とは期限内に面会できませんでした[1-6]。
児相を通じた緊急点検の結果(2019年2月14日~3月8日)と追加調査の結果(~4月8日)
3月8日までの約1か月間に全国の児相で在宅対応となっていた子どもを対象に、児相が面会による緊急点検を行った結果。( )は内数と全体に対する割合を表します。(※) は追加調査結果公表時の数字。
2625人(※)
6.94%(※)
面会できた子どものうち、身体にアザがあったり親に養育能力がないと判断されたりした170人について、保護者から引き離す措置がとられました。
このうち、144人が児童相談所で一時保護され、26人が児童養護施設などの施設に入所するか里親に委託されるかしました。
【4月27日更新 4月8日までの追加調査により、さらに18人の子どもが一時保護され、10人の子どもが施設に入所するなどしました[8,9]。2月以降の一連の緊急点検で同様の措置がとられた子どもは延べ200人を超えました[9]。】
この170人については、児相がリスクを過小評価していたおそれもあります。
しかし、朝日新聞によると、厚労省は「必ずしもリスクが高いまま放っておいたということではない。安全確認のタイミングでリスクの高まりを把握できたケースもある。変化を把握するのが大事」と説明しているということです[4]。
また、東京など都市部では、今回の点検よりも前から一時保護所が定員を超えており、今回の点検で緊急性があるにも関わらず一時保護を実施できなかったケースがあったのではないか、との懸念は残ります。
面会できなかった2,626人のうち2,535人は、今後面会の予定があるとのことですが、35人については行方が分からず、所在確認中だとしています。
所在確認中の子どもの中には、家族の夜逃げや本人が家出しているケースも含まれているとのことです。
【4月27日更新 4月8日までの追加調査により、当初面会できなかった2,626人のうち、2,187人は安全が確認できたということです[8,9]。一方、4月8日時点でまだ面会できていない子どもが438人いて、このうち15人はどこにいるのかも確認できていないということです。】
また、今回の緊急点検により、4,061人の子どもについては児相の援助方針の見直しが行われ、このうち約7割はリスクが低くなったとして指導を解除したケースだということです。
学校等を通じた緊急点検の結果
学校側では、2月14日まで2週間続けて幼稚園・小中学校などを欠席した子ども18万7,462人を対象に、教職員や教育委員会が子どもと直接面会を試みて、緊急点検を行いました。
その結果、16万7,156人(89%)と面会できたものの、2万306人(11%)とは面会できませんでした[1-6]。
学校などを通じた緊急点検の結果(2019年2月14日~3月8日)と追加調査の結果(~4月8日)
2月14日までの約2週間に学校などに1度も出席しなかった子どもを対象に、教育委員会などが面会による緊急点検を行った結果。( )は内数と全体に対する割合を表します。
面会できた子どものうち2,656人は虐待の疑いがあると判断された他、面会ができなかった子どものうち9,889人は面会できない合理的な理由がありませんでした。
これらを合わせた1万2,545人(全体の6.7%)は虐待のおそれが否定できないとして、教育委員会などから児童相談所・警察に情報提供しました(一部は今回の点検より前から情報提供済み)。
面会できなかったものの、合理的な理由があるとされたケースは、受験、不登校、海外渡航中などの理由で、1万417人いました。
特に、高校3年生は大学受験や就職活動などによる欠席者が多く、ほとんどは虐待と無関係だったということです。
【4月27日更新 4月8日までの追加調査により、この1万417人のうち493人は虐待のおそれが否定できないとして、新たに児童相談所・警察に連絡したということです[8,9]。】
また、学校・教育委員会が、一時保護されたことのある子どもの保護者から抗議や長時間の問い合わせなどを受けたケースが44件あったこともわかりました。
「保護を解除するよう高圧的な口調で迫られた」「保護者から電話などで罵倒された」といった事例があったということです。
千葉県野田市の事件では、父親の強い求めを教育委員会が拒むことができず、女の子が虐待を訴えたアンケートを父親に渡していたことが明らかになっていました。
未受診児・未就園児などの調査
2018年3月に東京都目黒区で5歳の女の子が虐待死した事件を受けた安全確認が続いており、その結果も合わせて公表されました。
乳幼児健診を未受診だったり、保育園・学校などに通っていなかったりする子どものうち、行政機関が安全を確認できていない子どもが2018年11月時点で2,936人いるとされていました。
その後の調査で、159人は虐待を受けているか、虐待のおそれがあり、児相などが一時保護(11人)や施設入所(10人)などの対応を取ったということです。
また、423人については2019年3月1日時点でも状況が確認できておらず、引き続き安全確認を進めているということです。
残りの2,354人は、海外に出国していたことがわかったり、本人に面会できたりして安全を確認できたということです。
今回の結果を受けて
合同PTは今回の点検結果に先駆け、長期欠席している子どもの安全確認に関する新ルールを2月28日に策定しています[7]。
新ルールでは、虐待を受けている可能性があると児相などが判断した児童・生徒を対象に、休日を除き連続して7日以上欠席した場合は (1) 学校が市町村や児相に情報を提供すること、(2) 児相などは状況の確認や警察との情報共有を行うことを求めています。
厚労省と文科省は、面会できていない子どもの状況などの確認を引き続き進めることにしています。
しかし、今回の点検結果を受け、専門家からは学校や児相だけで虐待を把握することは限界にきており、地域の活動や民間団体との連携が重要だと指摘する声も出ています[5]。
参考文献
- [1] NHKニュース「虐待の疑い 保護者から引き離した子 ひと月で170人に」2019年3月28日( リンク )
- [2] 産経新聞「児童虐待、170人疑い 35人不明、緊急安全確認調査」2019年3月28日( リンク )
- [3] 朝日新聞「虐待の恐れある子、2656人 心愛さん事件受け調査」2019年3月28日( リンク )
- [4] 朝日新聞「虐待、170人保護・入所 児相、リスク評価甘かった可能性」2019年3月29日( リンク )
- [5] 朝日新聞「長期欠席、2656人虐待の恐れ 2月1~14日、幼保~高校生全国面会調査」2019年3月29日( リンク )
- [6] 毎日新聞「疑い1万2545人 長期欠席18万人緊急点検 厚労・文科省」2019年3月29日( リンク )
- [7] 時事通信「7日欠席で児相連絡=女児死亡受け新ルール-厚労、文科省」2019年3月29日( リンク )
- [8] 時事通信「保護161人、入所39人に=緊急安全確認で追加調査-厚労・文科省」2019年4月26日( リンク )
- [9] NHKニュース「子どもの安全確認 新たに28人保護 厚労省」2019年4月26日( リンク )
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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