保護者による体罰禁止、2020年4月から施行――改正法が成立

子ども虐待防止を強化するために児童福祉法や児童虐待防止法などを改正する法案が、6月19日に国会で可決・成立しました。
保護者による体罰の禁止が法律に明記され、2020年4月から施行されます。
児童相談所(児相)の体制強化や、虐待をした親に再発防止プログラムを実施する努力義務なども盛り込まれました。
報道各社が報じました[1-8]。

虐待事件が次々と明らかになる中、今回の法案[9]は与野党が協議して修正合意し、衆参両院で全会一致で可決されました[1]。

体罰の禁止

改正法では、親や児童福祉施設の施設長が「児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」と明記しました。2020年4月から施行されます。
「体罰」の定義は、厚生労働省が今後指針などで具体的に示すということです。

なお、体罰に対する罰則は改正法に盛り込まれませんでした。
また、親権者ではない同居人(親の未婚のパートナーなど)が体罰や虐待に関わる場合もあり、今回の改正法では家庭で起きる体罰の一部が禁止範囲から抜け落ちているおそれが指摘されています[10]。

子どもへの体罰の禁止を提言するNGO「Global Initiative to End All Corporal Punishment of Children」が2019年6月19日現在掲示している資料[11]によると、刑務所を含むあらゆる場面で子どもへの体罰を禁止する法律を整備した国は、北欧・東欧・南米を中心に少なくとも50か国以上に上っています。
一方、先進国の中でもアメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアなどでは、体罰が全面的には禁止されていないということです。

児相の「介入」「支援」を分離、体制強化

今回の改正法では、児相の体制を大幅に見直すことが盛り込まれました。
子どもの一時保護などの介入を担う職員と、保護者の子育て相談などの支援を担う担当者を分けるよう規定しています。2020年4月から施行されます。

これまでは2つの役割を基本的に同じ職員が担当していて、職員が親との関係構築を意識するあまり、強制的な介入を躊躇するケースが目立つとの指摘が出ていました。

また、家族が引っ越した際に児相同士で速やかに情報を共有することが定められました。

さらに、改正法は各児相に医師と保健師をそれぞれ1人以上配置することを義務づけています。
虐待の兆候を医学的な見地から早期に発見するための対策です。

弁護士については配置を義務化せず、弁護士が常時助言できる体制を整えて、児相が措置を決める際に専門的な知見を活かせるようにします。
具体的には、弁護士を常勤や非常勤で配置するか、それに準じる対応(相談契約など)を取るということです。

中核市、特別区での児相設置促進

一部の児相の管轄人口が過大になっている現状について、改正法では国が人口などに基づいて政令で新たな児相設置基準を定めるとしています。
また、中核市・特別区の児相設置の義務化には踏み込まず、国が設置促進の措置を講じるよう求めるにとどめています。

すでに政府は児相職員(児童福祉司)を2022年度までに2,020人増員するなどの「新プラン」を決定、実施しています。

守秘義務

2019年1月に起きた千葉県野田市の虐待死事件では、暴行被害を訴えた女の子のアンケートを教育委員会が父親に渡し、虐待の悪化を招いたと見られています。

今回の改正法ではこの反省を踏まえ、児相や児童福祉施設の職員、学校、教育委員会に対して、虐待の疑いがある子どもの情報を漏らしてはならないとする守秘義務を定めています。

親に虐待防止プログラムを

与党が野党との修正協議に応じた結果、虐待をした親に対して児相が医学的・心理学的知見に基づく指導(虐待防止プログラムなど)を実施するよう努める、との規定が改正法に盛り込まれました。

改正前の児童虐待防止法には「親子の再統合への配慮」と「児童が家庭で生活するために必要な配慮」の下で「適切に行われなければならない」と定めるだけで、具体的にどのような手法が採られるべきかは記されていませんでした。

今後の検討課題

親が子を戒めることを認める民法の規定、いわゆる懲戒権については、改正法の施行後2年をめどに見直しを検討するとしています。
山下法務大臣が20日の法制審議会でこの規定の見直しを諮問する見通しとなっています[1]。

また、児相職員の専門性を高めるなどの目的で新たな国家資格の創設を求める動きがありましたが、今回の改正法には盛り込まれませんでした。
改正法の施行後1年をめどに、新たな資格創設も視野に入れつつ、職員の資質向上策を検討するとしています。

DV対策機関と児相との連携強化を図ることなどが盛り込まれています。


画像はイメージ。/ Photo by Dick Thomas Johnson, Flickr (CC-BY 2.0)

参考文献

  • [1] NHKニュース「子どもへの体罰禁止する法律成立 児童相談所の機能強化も」2019年6月19日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [2] 読売新聞「しつけで体罰禁止、改正児童虐待防止法が成立」2019年6月19日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [3] 朝日新聞「虐待の防止強化へ、改正関連法が成立 体罰禁止を明記」2019年6月19日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [4] 毎日新聞「改正児童虐待対策関連法、全会一致で成立 参院 問われる実効性」2019年6月19日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [5] 産経新聞「改正児童虐待防止法が成立 体罰禁止が柱」2019年6月19日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [6] 東京新聞「親の体罰禁止、来年4月から 改正虐待防止法が成立」2019年6月19日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [7] 時事通信「虐待家庭への児相介入強化=親の体罰禁止明記-改正法が成立」2019年6月19日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [8] 共同通信「改正虐待防止法が成立」2019年6月19日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [9] 参議院「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律案」2019年6月18日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [10] 毎日新聞「児童虐待 法改正で防げるのか 突貫工事で改正案、19日閣議決定」2019年3月16日付、2019年6月19日閲覧( リンク
  • [11] Global Initiative to End All Corporal Punishment of Children 2019年6月19日閲覧( リンク
社会で子育てドットコム編集部
社会で子育てドットコム編集部

「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。