「児相に通告した」「あれは通告ではなかった」…2004年にも児相と関係機関で見解が食い違う子ども虐待事件があった


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2004年、児相と学校で見解が相違

2003年、大阪府で、当時中学3年生だった男の子が、自宅で実父と継母から身体的虐待とネグレクトを受け、餓死寸前の状態で保護されるという事件が起こりました(報道で取り上げられたのは2004年1月から)[1,2,3]。
男の子は発見時、昏睡状態で救急搬送され、その後奇跡的に回復したものの、重い知的障害・身体障害が残ったと報じられています[1,2]。
この事件は虐待の酷さに加え、中学3年生であっても自宅に軟禁され、餓死寸前まで追い詰められてしまったという事実が注目を集めました[2]。

しかし、この事件が注目すべき点は他にもありました。学校と児童相談所(児相)の間で、虐待通告があったかどうかを巡って見解が食い違ったのです[2]。
学校は欠席が長いことや痩せていることから虐待の可能性を認識し、児相に「連絡」をしていました[2]。
連絡を受けた児相は継母と面会したものの、踏み込んだ調査はしていませんでした[2]。
その後、学校と児相の連絡は途絶え、虐待は見過ごされてしまったとみられています[3]。
事件発覚後、男の子が通っていた中学校は「児相に通告した」と主張し、児相は「あれは通告ではなく相談だった」と主張しました[1]。

かねてからの児童虐待相談件数の急増と大阪府の事件の報道によって、児童虐待防止の法制度を強化する必要性が叫ばれ、2004年4月に児童虐待防止法などの法律が改正されました[3,4]。

その後も制度変更はあったものの、子ども虐待防止について、児相と市町村、学校、保健所、警察などによる多機関連携の重要性が強調されている点は変わっておらず、現在に至ります。
また、児相の体制に不足があり、質や量を補う必要があることはこの頃すでに指摘されていました[2]。

2019年、児相と警察で説明相違か

2019年6月に明らかになった札幌市の女の子の衰弱死事件では、児童相談所(札幌市)と北海道警察(道警)の間で、事件の経緯の説明に食い違いがあることが明らかになってきています。

報道によると、5月12日に近隣住民から110番通報があり、14日には道警が翌15日に母子と面会する予定を取り付けたということです[5,6,7]。
児相が6月6日夜の記者会見で説明した内容によると、児相は12日から14日の間に道警から面会への同行を3回にわたって要請されたものの、児相は「人繰りがつかない」などとして断っていました[5,6,8]。

その後、児相は6月10日の記者会見で見解を変え、5月14日に道警から母親との面会に児相職員が同行するのを控えるよう求められたと説明しました[7,9,10]。
道警はこの説明を否定していると報じられています[7,9]。

さらに、通告から48時間以内に児相が子どもの安全確認をするという、いわゆる48時間ルールが、この事件では守られていなかったこともわかっています[6,8]。

また、道警側は一部メディアの取材に対して、5月13日の時点で強制的に家庭を立ち入り調査する「臨検」を検討するよう児童相談所に要請したものの、児相に断られたと説明しています[11,12]。
これについて児相側は「臨検を求められた認識はなかった」と説明していると報じられています[11,12]。

児相側と道警側の主張が食い違い、本稿執筆時点では実際にどのような経緯があったのかはっきりしません。
ただ、ひとつ確実に言えるのは、この事件が「子ども虐待を早期発見するための多機関連携」について重大な懸念を招いているという点です。

ちなみに、札幌市児相の児童福祉司の数は2018年4月1日時点で36人[13]。
これに対して札幌市の人口は195万人で、児相への虐待相談件数は年間1,909件(平成29年度)です[14]。
そして児相は虐待対応だけでなく、子育て相談や里親委託、非行への対応なども担当しています。
札幌市児相は、職員が1人当たり百数十件の案件を抱える中で、虐待相談に24時間対応するのは厳しいのが実情だと説明しました[6,8]。

子ども虐待に関する通告件数が増えた背景のひとつは、虐待防止について市民の意識が向上したことでしょう。
しかし、市民からの通告を活かして子どもを守っていくには、児相を中心とする関係機関の連携が必要なのだということを、札幌の事件は改めて浮き彫りにしました。
15年前の大阪での事件やその他多くの虐待事件から、私たちは何を学んできたのか、十分な対策をとってきたのか……私たちは重い課題を背負ったままです。

参考文献

  • [1] 西澤哲(2010)「子ども虐待」講談社( リンク
  • [2] 子どもの虹情報研修センター「児童虐待に関する文献研究 児童虐待重大事例の分析(第1報)」平成24年3月16日発行( リンク
  • [3] 箱崎幸恵「児童虐待防止法について」オレンジリボンネット 2019年6月10日閲覧( リンク
  • [4] 児童虐待防止全国ネットワーク「児童虐待防止法制度」2019年6月10日閲覧( リンク
  • [5] NHKニュース「札幌の児童相談所 警察の同行要請を3度断る 2歳女児衰弱死」2019年6月8日付、2019年6月10日閲覧( リンク
  • [6] 毎日新聞「札幌女児死亡 道警面会に児相同行断る 「行くべきだった」」2019年6月8日付、2019年6月10日閲覧( リンク
  • [7] HTBニュース「救われなかった2歳の命 行政の問題点」2019年6月10日付、2019年6月10日閲覧( リンク
  • [8] 朝日新聞「児相、警察との連携限定的 札幌の2歳女児死亡」2019年6月7日付、2019年6月10日閲覧( リンク
  • [9] 共同通信「警察から同行控える要請か、札幌 2歳児衰弱死巡り、児相説明一転」2019年6月10日付、2019年6月10日閲覧( リンク
  • [10] FNN「【速報】「児相は同行を遠慮してくれ」札幌2歳女児衰弱死事件で児相が警察とのやりとりを公表」2019年6月10日付、2019年6月10日閲覧( リンク
  • [11] 時事通信「道警が強制立ち入り要請=児相「認識なかった」-札幌女児死亡」2019年6月10日付、2019年6月10日閲覧( リンク
  • [12] FNN「児相「臨検」打診に応じず 札幌市2歳女児衰弱死」2019年6月10日付、2019年6月10日閲覧( リンク
  • [13] 厚生労働省「児童総暗所関連データ」全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料(平成30年8月30日) 2019年6月10日閲覧( リンク
  • [14] 札幌市児童相談所「相談受理状況等(平成29年度)」2019年6月10日閲覧( リンク
社会で子育てドットコム編集部
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「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。