児童虐待防止に向けた児童相談所(児相)のあり方を検討している厚生労働省の有識者検討会は26日、報告書をまとめました[1]。弁護士の常勤配置や中核市の児相設置を義務化するかどうかをめぐっては意見が割れ、両論併記の形となりました。
共同通信など報道各社が伝えました。
児童相談所が子どもを親から引き離す「保護」と親子揃っての「相談・支援」の2つの機能を担う現状については、児相が両方の機能を適切に果たせるよう、機能を振り分けるべきとされました。
ただその具体的な方法に関しては、「児相の中で機能ごとに部署を分けるべき」「同一ケースの中で保護と相談・支援を別の職員に振り分けるべき」など、異なる意見を併記した上で「国が方向性を示すべき」としています。
児相が警察から受理する「面前DV」(子どもの前で家族などに暴力を振るう心理的虐待)に関する通告が増加して、安全確認などの業務負担が重くなっていることについては、児相と市町村の間で役割分担をし、効率的・効果的な対応ができるよう、都道府県が枠組み作りを進めるものとされました。
児相職員(児童福祉司)の指導・育成を担うスーパーバイザーを国家資格にする案をめぐっては、「社会福祉士等の既存の国家資格の活用促進や充実を図るべき」という反対意見が出て、まとまりませんでした。
今後、専門的に検討する委員会を別途設けて、国家資格化も含めたあり方について検討を進めるということです。
焦点の1つとなっていた弁護士の常勤配置の義務化については、「児相の意思決定に日常的に弁護士が関与し、法的な知見を踏まえた対応ができる体制を整備する」との点では意見が一致したものの、「複数の非常勤弁護士を配置するなど、地域の実情に合わせたあり方を許容すべき」との反対意見が出され、両論が併記されました。
平成30年4月1日現在で全国に212カ所ある児相のうち、常勤弁護士を配置しているのは7カ所(3.3%)で、大半は非常勤配置や弁護士事務所との相談契約となっています[2]。
また、常勤医師の配置義務化をめぐっても「医師の確保が難しい」などと意見が割れ、両論併記となりました。
地域におけるきめ細かな対応を進めるため、平成28年の児童福祉法改正で中核市・特別区(東京23区)も児童相談所を設置できるようになりましたが、実際には中核市での設置は進んでいません[2]。
検討会ではより一層の設置促進策を講じることが必要との点では一致したものの、「設置の義務化を法律に盛り込むべき」という意見と「設置が進まない要因の分析や、国の財政支援などが先であり、設置の義務化については慎重に検討すべき」という意見が出され、報告書では両論併記となりました。
報告書ではこの他、子どもの意見表明権を保障するしくみの構築や、児相を第三者が評価するしくみの導入に取り組むことなどが盛り込まれました。
政府は東京都目黒区で5歳の女の子が虐待死した事件を受け、6月に緊急総合対策を決定しましたが、その際に積み残した課題がこの有識者検討会で議論されてきました。
厚生労働省は報告書の内容に基づき、来年の通常国会に児童福祉法の改正案を提出する方針だということです。

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社会で子育てドットコム編集部
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