児童虐待防止のための法改正案が閣議決定 体罰を禁止、児相の介入・支援機能を分離

政府は3月19日の閣議で、児童虐待の防止策を強化するための法律の改正案を決定しました。
NHKニュースなど報道各社が伝えました。

改正案は、親権者などによるしつけ名目の体罰の禁止や、児相の体制強化が主な柱となっています。
児童福祉法や児童虐待防止法を改正して、一部規定を除き2020年4月1日に施行するとしています[1]。

体罰の禁止、懲戒権の見直し

2018年3月に東京都目黒区で5歳の女の子が亡くなった事件と、2019年1月に千葉県野田市で小学校4年生の女の子が亡くなった事件では、ともに父親が「しつけ」名目で日常的に暴力を振るっていたとされています。


画像はイメージ。/ 素材写真:takasuu, iStock

今回の児童虐待防止法の改正案は、「児童のしつけに際して体罰を加えてはならない」と明記しています。
この規定は、親だけなく、児童養護施設などの児童福祉施設の施設長、職員など子どもの養育に携わる人に適用されるということです。

「体罰」の定義は、厚生労働省が今後指針などで具体的に示すということです。
学校の教員については、すでに学校教育法第11条が生徒・児童に「体罰を加えることはできない」と規定し、文科省の通知で体罰の具体例が示されています

なお、しつけ名目で体罰をした場合の罰則は改正案に盛り込まれていません。
また、親権者ではない同居人(親の未婚のパートナーなど)が体罰や虐待に関わる場合もあり、この改正案では家庭で起きる体罰の一部が禁止範囲から抜け落ちているおそれがあります[2]。

親が子を戒めることを認める民法の規定、いわゆる懲戒権については、改正法の施行後2年をめどに見直しを検討するとしています(付則)。

児相の「介入」「支援」を分離

今回の改正案では、児童相談所(児相)の体制を大幅に見直すことが盛り込まれました。
子どもの一時保護などの介入を担う職員と、保護者の子育て相談などの支援を担う担当者を分けるよう規定しています。

これまでは2つの役割を基本的に同じ職員が担当していて、職員が親との関係構築を意識するあまり、強制的な介入を躊躇するケースが目立つとの指摘が出ていました。

児相に医師配置を義務化、弁護士も常時助言

改正案では、児相が措置を決める際に専門的な知見を活かすため、弁護士が常時助言できる体制を整えるよう求めています。
具体的には、弁護士を配置するか、それに準じる対応(相談契約など)を取るものとされています。

また、改正案は各児相に医師、保健師をそれぞれ1人以上配置することを義務づけています。
虐待の兆候を医学的な見地から早期に発見するための対策です。
医師、保健師の配置義務は他の規定よい2年遅い2022年4月に施行するとしています。

常勤の弁護士や医師の配置義務化をめぐっては、厚労省の有識者会議で意見が割れ、2018年12月の報告書で両論併記となった経緯がありました[3]。
この会議では「複数の非常勤弁護士を置くなど、地域の実情に合ったあり方を許容すべき」「医師の確保が難しい」などの意見が出ていて、改正案の規定はこうした点を考慮したものとみられます。

守秘義務

野田市の事件では、暴行被害を訴えた女の子のアンケートを教育委員会が父親に渡し、虐待の悪化を招いたと見られています。

今回の改正案ではこの反省を踏まえ、児相や児童福祉施設の職員、学校、教育委員会に対して、虐待の疑いがある子どもの情報を漏らしてはならないとする守秘義務を定めています。

新たな国家資格も含めて検討

児相職員の専門性を高めるなどの目的で新たな国家資格の創設を求める動きがありましたが[4]、今回の改正案では盛り込まれませんでした。
改正法の施行後1年をめどに、新たな資格創設も視野に入れつつ、職員の資質向上策を検討するとしています。

新たな国家資格の創設については、先述の有識者会議で意見が割れたため、今後別の専門家会議を置いて議論を進めるとして、結論が先送りにされていました[3]。
反対意見として「社会福祉士等の既存の国家資格の活用促進や充実を図るべき」などの声が上がっています[3,4]。

中核市、特別区での児相設置促進

現状では児相が管轄する人口が平均して60万人と多く、一部の児相では100万人を超えており、児相の設置のあり方も見直しを求める声が上がっていました[2,5]。

これを受けて今回の改正案では、国が人口などに基づいて政令で新たな児相設置基準を定めるとしています。
また、中核市・特別区の児相設置の義務化には踏み込まず、国が設置促進の措置を講じるよう定めるにとどめています。

現行の児童福祉法の下では、児相は都道府県・政令指定都市に設置義務があるほか、中核市や特別区も設置が可能となっています。
中核市・特別区の児相では、より地域に根差したきめ細やかな対応ができる可能性があるものの、設置の動きは必ずしも進んでいません。

財源の確保や専門人材の育成などに課題があるとされ[2,3]、中核市の市長会は国に支援を求めており、義務化ありきの議論には反対しています[6]。
一方、一部の国会議員などの間では、中核市・特別区の児相設置を義務化すべきとの意見も出ていました[4,5]が、改正案には盛り込まれませんでした。

その他の対策

改正案では上記のほかに、DV対策機関と児相との連携強化を図ることなどが盛り込まれています。
政府はこの改正案を今国会で成立させたい考えとのことです。

また、政府はこの改正案の決定に先立ち、関係閣僚会議を開いて法改正以外の対策も打ち出しました[1]。

参考文献

  • [1] 首相官邸「児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議」平成31年3月19日( リンク
  • [2] 毎日新聞「児童虐待 法改正で防げるのか 突貫工事で改正案、19日閣議決定」2019年3月16日( リンク
  • [3] 厚生労働省社会保障審議会 児童部会社会的養育専門委員会「市町村・都道府県における子ども家庭相談支援体制の強化等に向けたワーキンググループとりまとめ」平成30年12月18日( リンク
  • [4] 福祉新聞「児童虐待防止の新資格で激論 社会福祉士会は子ども家庭福祉士に反対」2019年3月4日( リンク
  • [5] 朝日新聞「改革されぬ児相、何人が犠牲に 取材で聞いた怒声4時間」2019年3月18日( リンク
  • [6] 中核市市長会「中核市における児童相談所の設置に関する緊急要請」2019年1月23日( リンク
社会で子育てドットコム編集部
社会で子育てドットコム編集部

「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。