児童養護施設は、虐待や経済的事情、親の病気などの理由で親と一緒に暮らせない子どもを預かり、養育する施設です。
原則として18歳(高校卒業)の時点で施設を出なければならず(退所)、親・親族を頼れない人は基本的にひとり暮らしをすることになります。
今回は、施設の出身者たちの横顔を知るべく、東京都による2015年度の調査結果[1]を見ていきたいと思います。
この調査は、2005~2015年に東京の児童養護施設を退所し、2015年12月時点で施設が連絡先を把握していた人を対象としたもので、475人の退所者から回答を得ています。
後編では、退所者が困った事と、それを誰に相談するか、について見ていきます。前編(学業、仕事、収入、住まい)はこちら。
何に困っている?
退所者が何に困っているかについては、この調査では児童養護施設と他の児童福祉施設、里親等を合わせた結果しか示されていません。
児童養護施設と他の施設等の退所者に、施設退所(措置解除)直後にまず困ったことを複数回答で尋ねたところ、「孤独感・孤立感」が 35% で最も多くなっています。
その一方で「身近な相談相手・相談窓口」を挙げた人は 17% に留まりました。
他に多かった回答は「金銭管理」が 32%、「生活費」が 31%、「職場での人間関係」が 25%、「住民票や戸籍の手続き」が 17% などとなっています。
施設退所直後にどのような支援が望ましいかについても、児童養護施設と他の施設等を合わせた結果が示されています。
「経済的支援」「精神的な支援」がそれぞれ5割前後、「生活・仕事・対人関係等の相談支援」「生活(衣食住)の仕方への支援」がそれぞれ4割前後となっています。
東京の児童養護施設など(※)の出身者が思う「退所直後には望ましい支援」
前編記事で退所者の学業、仕事、収入、住まいの状況について紹介しているので、合わせてご覧ください。
困ったときどうする?
児童養護施設の退所者の中には、親・親族を頼れない人が多くいます。困った時に頼れる存在はいるのでしょうか。
困ったことについて相談する相手を尋ねる質問(複数回答)では、「施設の職員」が 36% で最も多くなっています。
この調査では自立支援を担当する「自立支援コーディネーター」が配置されている施設のほうが、退所者に相談先として選ばれやすいという結果も出ています。
また、「学校の友人・知人」「施設の友人・先輩」や「その他の友人・知人」が揃って上位に入り(それぞれ 25%、21%、28%)、施設の内外で出会った友人・知人が有力な相談相手になっていることがわかります。
「職場の同僚・先輩」(15%)、「職場の上司」(11%)がそれぞれ6位、8位となっていて、職場での人間関係も一定程度支えになっているようです。
「親(保護者)・その他の親族」(22%)は4位でした。
一方、NPOなど「施設出身者等のための相談支援機関」を相談先に挙げた人は 4.7% しかおらず、「相談できる人はいない」の 8% や「その他」5.6% を下回りました。
別の質問では、施設出身者等の相談支援機関があることを「知らない」人が 2/3 を占め、「利用したことがない」人が9割に達するとの結果が出ています。
東京の児童養護施設出身者が、困ったとき相談する相手
退所に向けた指導・支援に満足しているか?
退所(自立・自活)に向けた施設等の指導や支援に満足しているかどうかについては、「大変満足」が3割、「ほぼ満足」が4割で、「どちらともいえない」が 25% 、「やや不満」「非常に不満」が合わせて 6% となっています。
児童養護施設にいる間の退所準備に関しては、多くの人がそれなりに満足しているようです。
東京の児童養護施設出身者が、退所(自立・自活)に向けた施設での指導や支援に満足しているか
児童養護施設の生活で経験したことが社会生活の準備にどれくらい役立ったかを尋ねる質問では、「大いに役立った」「少し役立った」が合わせて 80% でした。
施設生活で具体的に何が身についたと思うかについては、「掃除、洗濯」が 75%、「基本的生活習慣」「社会生活上の基本マナー・ルール」「コミュニケーションのとり方」がそれぞれ 50% 以上で、上位に入りました。
逆に、下位に入ったのは「住居の探し方や契約の仕方」「仕事の探し方」「健康保険や年金などの知識や加入方法」「保健医療の知識、病院の利用の仕方」「電気、ガス、水道、電話等の契約に関する手続き」などで、いずれも 20% を下回っていました。ひとり暮らしをしたことのない高校生にとっては、馴染みの薄いことばかりです。
「社会で子育てドットコム」で以前取材した児童養護施設でも、自立準備の一環として、高校生が水道の使用開始手続きについて調べたりしていたのが印象的でした。
おわりに
「社会で子育てドットコム」を運営するNPO法人ライツオン・チルドレンは、活動の中で退所者に接し、話を聞く機会があります。
その中で感じるのは、「施設で暮らしている時から信頼関係を築き、退所後に進路選択や相談支援を継続してサポートできる」人が、もっと必要だということです。
まずは自立支援コーディネーターなど、児童養護施設の職員の配置を手厚くするなどの対策が求められているように思います。
参考文献
- [1] 東京都福祉保健局「東京都における児童養護施設等退所者の実態調査報告書」2017年2月24日( リンク )
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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