児童養護施設は、虐待や経済的事情、親の病気などの理由で親と一緒に暮らせない子どもを預かり、養育する施設です。
原則として18歳(高校卒業)の時点で施設を出なければならず(退所)、親・親族を頼れない人は基本的にひとり暮らしをすることになります。
今回は、施設の出身者たちの横顔を知るべく、東京都による2015年度の調査結果[1]を見ていきたいと思います。
この調査は、2005~2015年に東京の児童養護施設を退所し、2015年12月時点で施設が連絡先を把握していた人を対象としたもので、475人の退所者から回答を得ています。
前編では、退所者の学業、仕事と収入、住まいの状況を見ていきます。後編(退所前の準備と、退所後の相談相手)はこちら。
学業の継続の難しさ
退所後に進学した人の割合については、この調査では児童養護施設と他の児童福祉施設、里親等を合わせた結果しか示されていません(退所後に「進学した」43%、「就職した」47%)。
一方、中退率と中退の理由は、児童養護施設を退所した人だけの結果が示されています。
児童養護施設を退所後に進学した人のうち、「中途退学した」は 18% でした。「現在も在学中」は4割強、「卒業した」が4割弱でした。
中退した理由(複数回答)は、「アルバイトとの両立ができなかった」が6割でトップ、次いで「学費等の負担が大きかった」「心身の病気、ストレス」がそれぞれ4割となっています。
学校を続ける上で大変だと感じたこと(主なもの2つまで)を尋ねる質問では、「アルバイト等との両立」の割合が 94% で最も高く、次いで「学費等の教育費の負担」「生活費・交際費等の負担」がそれぞれ 76% となっています。
逆に、「学科内容とレベル」はわずか 22% となっています。
これらの結果から、能力も意欲もある退所者に、金銭面(アルバイト)の負担が重くのしかかっていることが読み取れます。
東京の児童養護施設出身者が、学校を続ける上で大変だと感じたこと
仕事の状況は?
児童養護施設を退所した人の9割近くが現在「働いている」、1割強が「働いていない」と回答しています。
退所後に最初に就いた仕事をずっと続けている人が半数近くいた一方で、最初の仕事を1年以内に辞めた人が 26%、1年以上続いたが3年以内に辞めた人が 17% いました。
3年以内に辞めた人の合計は 43% ですが、実は一般の高卒者の3年以内離職率は 40%、大卒者の3年以内離職率はおよそ 30% [3]なので、それと比べるとそれほど高くないことがわかります。
仕事がうまくいっているならいいのですが、「実家」がないために仕事を辞めたくても辞められないケースもあるので、良し悪しを一概には言えません。
東京の児童養護施設出身者が最初の仕事を続けている期間
月収(手取り)を尋ねる質問では、「15~20万円」の人が最も多く(3割)、「10~15万円」(25%)、「20~25万円」(16%)と続きます。「35~40万円」も 2% ほどいました。
どんなところに住んでいる?
退所直後の生活場所は、「民営の賃貸住宅(民間アパート等)」が 25% で最も多く、次いで「親の家に同居」が 21%、「就職先の寮」が 14% などとなっています。
児童養護施設に入所する子どもの9割に親がいるので[2]、退所後に親と暮らす人もいます。
東京の児童養護施設を退所した直後の住まい
おわりに
「社会で子育てドットコム」を運営するNPO法人ライツオン・チルドレンは、活動の中で退所者に接し、話を聞く機会があります。
退所した人たちからは、「仕事を辞めたくても、経済的に行き詰ってしまうので辞められない」、「大学とアルバイトの両立がもう無理」といった声も聞きます。
行き詰ってしまいそうな時のための経済的な支援や、一時的な退避先が求められているのではないかと思います。
前編はここまでとなります。後編では、退所者が困った事と、それを誰に相談するか、について見ていきます。
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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