目黒虐待死事件、児童相談所の引き継ぎなどに問題指摘――厚労省の検証報告

東京都目黒区で今年3月、5歳の女の子 船戸結愛(ゆあ)ちゃんが両親から虐待を受けて死亡した事件について、厚生労働省の専門委員会が検証報告書を取りまとめました。
児童相談所(児相)や関係機関の対応に問題があったことを指摘し、児童相談所間の引き継ぎの徹底などを国に提言しています。
NHKニュース共同通信時事通信など報道各社が伝えました。


画像はイメージ。/ Image by 社会で子育てドットコム.

香川県での対応

この事件では、結愛ちゃんが香川県に住んでいた間、虐待が疑われるあざや傷が繰り返し見つかったため、香川県の児相は結愛ちゃんを2回一時保護したものの、1回目は約1カ月、2回目は4カ月あまりで家庭に復帰させていたことがわかっています。

今回の報告書によると、香川県の児相では、リスクの程度を評価するチェックリスト形式の「アセスメントシート」などの記録が作成されていなかったことが明らかになりました。
また、一時保護の際に、医療機関が施設入所などの措置が必要と訴えており、家庭裁判所の承認を得て保護者の同意なしに入所させる手続き(いわゆる28条措置)を検討すべきだとの提案もされていたことが明らかにされました。

こうした状況にも関わらず、児相はリスクが5段階の真ん中にあたる「中度」という見方をとり続け、弁護士などに相談はしていなかったということです。
そして、ケガができた時期や原因が特定できないことなどを理由に家裁への申し立てをせず、一時保護を解除していたということです。

2度目の一時保護解除の後にも、結愛ちゃんにあざが見られ、「父親から暴力を受けている」「家に帰りたくない」と話していたことが医療機関から児相に伝えられていたことも明らかになりました。

専門委は、香川県の児相が十分にリスクを評価できていなかったと指摘しています。

東京に引っ越す際の対応

死亡事件の1か月ほど前に結愛ちゃん一家が東京に引っ越した際の情報の引き継ぎについては、香川県の児相が東京の児相に膨大な資料を送付し、電話で引き継ぎを行ったということです。

引き継ぎ時の問題点として、

  • 香川県側はケガの写真や「アセスメントシート」などの客観的資料を送付しなかったこと
  • 香川県側は、一家が引っ越すことを理由に、両親への面談などを行う行政措置(児童福祉司指導)を解除しており、引き継ぎ先の児童相談所でリスクを低く見積もる要因になったこと
  • 対面での引き継ぎがなかったことで、危機感や家族の特性などの情報やニュアンスが十分に伝わらず、両児相のリスク判断にズレが生じたこと

といった点が報告書で指摘されています。

東京に引き継がれた後の対応

東京都の児相では、2度の家庭訪問などで結愛ちゃんの安全を確認できなかったのに、緊急性が高くないという判断を見直さず、家庭への支援を優先する方針が維持されていました。
目黒区職員が家庭訪問しようとした際には、「児童相談所が先に行う」として待つよう要請したにも関わらず、その後は区に情報提供していなかったことも明らかになりました。

結局、児相が立ち入り調査などに踏み切ることはなく、2018年3月2日に結愛ちゃんは死亡しました。

今後の対策

報告書では今後の対策として、

  • 児童相談所間の引き継ぎは「アセスメントシート」などの資料とともに、対面で行うこと
  • 引き継ぎを受けた側も情報提供を求め、みずから対応を検討すること
  • 引き継ぎ完了までは児童福祉司指導などの措置を解除してはならないこと

といった点を国に提言しています。

共同通信は、専門委で委員長を務めた関西大学の山県文治教授の話として、「国や自治体のマニュアルを守っていれば、亡くなる確率はかなり低かったと思う」とのコメントを掲載しました

また日本経済新聞は、厚労省幹部の話として「国の指針やマニュアルに照らし合わせても、香川、東京の双方で児相の対応には問題があったといわざるを得ない。緊急対策を着実に実施し、再発防止に努めたい」というコメントを掲載しました

今回検証を行った社会保障審議会児童部会の「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」は、年度ごとに虐待死事案をまとめて検証しています。
ただ、今回の事件は「複数の児相が関与し、社会的な関心も高い」として、初めて1事例のみの検証を実施しました。9人の委員が関係機関への聞き取りと分析を行いました。
香川県と東京都もそれぞれ有識者による検証が進められており、今回の専門委の検証では自治体をまたぐ問題を中心に調査を行ったということです。

船戸結愛ちゃんが死亡するまでの経緯

報道各社が捜査関係者の話などとして伝えた内容に基づいて、「社会で子育てドットコム」編集部がまとめたもの。

2016年12月
香川県の自宅の前で結愛ちゃんが唇から出血した状態で放置され、児童相談所が一時保護。父親は傷害の疑いで書類送検される
2017年2月
一時保護を解除され、結愛ちゃんが自宅に戻る
2017年3月
再び放置され、児童相談所が2度目の一時保護。父親は再び傷害の疑いで書類送検される
2017年4月
結愛ちゃんが幼稚園を退園
2017年7月
一時保護を再び解除し、結愛ちゃんが自宅に戻る
2017年8月
結愛ちゃんの体にあざがあるのを病院が見つけ、本人が「パパに蹴られた」と話したため、市に通報。市から連絡を受けた児童相談所は、家庭訪問や両親との面接を行い、虐待の問題に詳しい専門の病院を紹介。母親は結愛ちゃんと一緒に数か月通院
2018年1月
結愛ちゃんら家族が東京に引っ越し。児童相談所は、市と連絡を取って転居先の住所を確認した上で、東京の児童相談所に資料を送り、引き継ぎを行った。
このころ健康診断で結愛ちゃんの体重は16.6キロ。この頃から虐待がエスカレートか
2018年2月9日
東京の児童相談所職員が自宅訪問したが、母親が「関わってほしくない」と話し、結愛ちゃんに面会できず
2018年2月20日
小学校の入学説明のため関係職員が自宅訪問したが、結愛ちゃんに面会できず
2018年2月下旬
父親が結愛ちゃんの顔面を殴るなどの暴行か
2018年3月2日
父親が「娘が数日前から食事をとらず嘔吐し、心臓が止まっているようだ」と119番通報。結愛ちゃんは心肺停止の状態で救急搬送され、病院で死亡。死因は肺炎による敗血症とみられる。同年代の平均体重がおよそ20キロに対して、結愛ちゃんの死亡時の体重は12.2キロ

ママ もうパパとママにいわれなくても しっかりとじぶんから きょうよりかもっと あしたはできるようにするから

もうおねがいゆるして ゆるしてください おねがいします

ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして

きのうぜんぜんできなかったことこれまでまいにちやってきたことをなおす

これまでどんだけあほみたいにあそんだか あそぶってあほみたいだからやめる もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいやくそくします

もう あしたはぜったいやるんだぞとおもって いっしょうけんめいやる やるぞ

――結愛ちゃんのノートに残されていたメモ、2018年6月6日のFNN PRIME より引用

社会で子育てドットコム編集部

「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。