虐待後の子どもが退院できないケース 厚労省による初の調査結果

虐待を受けて医療機関に入院した子どもが、受け入れ先がないなどの理由で退院できなくなるケースについて、厚生労働省による初めての調査結果が公表されました。
虐待を受けて1か月以上入院した子どものうち、32%にあたる63人が、治療が終わったにも関わらず入院を延長していたことがわかりました。
8月31日にNHKニュース毎日新聞日本経済新聞などが報じました。


写真はイメージ。/ Image by 社会で子育てドットコム. Based on a photo by iStock.com, Golfcuk. <

今回の調査では、厚生労働省が全国の児童相談所を通じて、平成28年度に虐待を理由に子どもを一時保護したケースについて集計しています[1]。
虐待を理由に児童相談所が一時保護し、1か月以上医療機関に入院した子どもは全国に195人おり、そのうち、治療が終わったにもかかわらず退院できなかった子どもは63人(32%)いたことがわかりました。

この63人の子どもが退院できなかった期間は、2週間以下が17人(27.0%)で最も多く、次いで31日~60日が15人(23.8%)、61日~120日が13人(20.6%)などとなっていて、1年以上に及んだ子どもも1人(1.6%)いたということです。
一般的に、医療機関で子どもが生活することは成長・発育の面で好ましくなく、必要な治療が終わったら家庭などに帰すべきと考えられています[4,5]。

虐待後の「社会的入院」で退院できなかった子どもの数

子どもが虐待により1か月以上入院した後、治療が終わったにもかかわらず退院できなかったケースについて、その期間を調べたもの。

治療が終わったにもかかわらず退院できなかった期間
子ども人数
2週間以下
17人(27.0%)

15日~30日
11人(17.5%)

31日~60日
15人(23.8%)

61日~120日
13人(20.6%)

121日~1年未満
6人(9.5%)
1年以上
1人(1.6%)

出典:厚生労働省「平成29年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料 3.児童虐待防止対策等について」[1]
※出典元のデータは「件数」で集計されているが、表の作成時に「人数」に読み替えて記載した。
グラフ作成:社会で子育てドットコム編集部


子ども自身の障害や医療的ケアも入院の理由に

虐待の種別でみると身体的虐待が31人と半数(49.2%)を占めていますが、児童相談所が子どもを入院させた理由(子どもの一時保護先が医療機関であった理由)のうち、骨折などの外傷は5人(7.9%)に留まっています。
他の入院理由をみると、トップは乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)や重症心身障害児であったケースで、63人中26人(41.3%)、次いで胃ろうなどの医療的ケアが必要なケースが14人(22.2%)、精神科での入院治療が必要だったケースが12人(19.0%)となっています。

こうしたデータから、医療機関への入院を決める際に、虐待による心身の外傷だけでなく、子ども自身の障害などに常時対応できる医療・看護体制を重視する必要があったことが伺えます。
実際、退院後の受け入れ先に関するデータをみると、病院に併設されていることが多い「乳児院」が17人(27.0%)、「医療型障害児入所施設」が9人(14.3%)などとなっています。

受け皿確保に課題

児童相談所が一時保護した子どもは、児童養護施設乳児院、あるいは里親などに養育を委託することになっています。
しかし、施設の定員や職員配置が十分でなかったり、委託には原則として親の同意が必要であったりして、思うように委託先が見つけられないことがあります。(親が親権停止の措置を受けているなどの場合は、委託への同意は不要です。)

今回、63人の子どもが退院できなかった理由をみると、子どもを受け入れられる児童福祉施設の確保に時間がかかったなどのケースが30人(47.6%)と最も多く、次いで保護者との間で家庭復帰や施設入所委託の調整に時間がかかったなどが21人(33.3%)となっています。

また、一時保護した後、児童相談所が家庭を支援して、子どもを家庭復帰させる場合もあります。
今回の調査でも実際に家庭に復帰した子どもは63人中16人(25.4%)いて、退院後の受け入れ先の中では2番目に多くなっています。

厚生労働省はこうした点を踏まえ、入院時の環境を改善する、施設・里親といった受け皿の整備を進めるといった対策を、全国の自治体等に求めています[1]。

参考文献

  • [1] 厚生労働省「平成29年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料 3.児童虐待防止対策等について」平成30年8月30日開催( リンク
  • [2] 溝口史剛・仙田昌義・石崎優子 (2016)「被虐待児の入院に関する社会的状況調査ならびに医療機関における虐待事例対応労務調査報告 : 医療者は虐待にどれほどのeffortを割いているのか」 公益財団法人明治安田こころの健康財団 研究助成論文集, 52, 37-46.( リンク
  • [3] NHKオンライン 居場所のない子どもたち「退院できない子ども 大阪府で少なくとも168人」2016年11月( リンク
  • [4] NHKオンライン 居場所のない子どもたち「元気な子どもがなぜ病院に?」2016年11月( リンク
  • [5] NHKオンライン 居場所のない子どもたち「「子どもの社会的入院」とは? 調査をした石崎優子医師に聞く。」2016年11月( リンク
社会で子育てドットコム編集部

「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。