二葉むさしが丘学園は東京の西部、小平市にある児童養護施設で、児童定員78人(うち6名は一時保護枠)、職員は60人程度です。
2010年に東京都立の児童養護施設が社会福祉法人二葉保育園に移管されて、「二葉むさしが丘学園」として新たなスタートを切りました。
聞き手:立神由美子(NPO法人ライツオン・チルドレン)
編集:石井宏茂(NPO法人ライツオン・チルドレン)
※以下、敬称略
トップ3のニーズは?
――「社会で子育てドットコム」では、読者の方に現場のニーズを発信することを目指しています。二葉むさしが丘学園で「いま必要としているものトップ3」を教えていただけますか。
毎日通院や買い物で使ったり、外出などでもかなり使うのですが、なかなか予算もないので、中古のボロボロの車を使っていて…。
故障も多くなってきたこともあり、まさに今買い換えたいものなんですが、なかなか厳しいのが現状です。
ちなみに通院については、入所前の養育環境の影響で、医療的なケアを必要とする子どもがものすごく多いためです。皮膚科、内科、歯科、精神科等々、看護師を中心にほぼ毎日通院の付き添いをしています。また、集団生活なので感染症のシーズンは特に大変です。
入所した子どもたちのより良い育ちのためにも、安心・安全、そして健康を保証してあげるのが僕らの責務なので。
2つ目は、生活家電です。例えば掃除機、洗濯機、炊飯器、トースター、食器乾燥機等です。
繰り返しになりますが、僕ら職員は子どもたちの生活をより良いものにするため、美味しいご飯、清潔な部屋、きれいな洋服で過ごせるようするために、仕事の中心と言ってもいいほど毎日家事に励んでいいます。その分どうしても生活家電の消耗が激しいので、壊れることが多くて。
また退所したあとの子どもたちの新生活にも必要なものです。ですので、ファミリーサイズ、1人暮らしサイズ共にニーズがあります。
3つ目は日常生活の消耗品ですね。洗濯洗剤、柔軟剤、食器用洗剤、トイレットペーパー、箱ティッシュペーパーなど。
これも、生活家電と同じ理由で必要です。
ただ、ここ数年は生活消耗品を寄贈でいただくことが多いため、ニーズがやや落ち着いています。」
体験を共有するための工夫をしてほしい
――二葉むさしが丘学園から社会に向けて発信したいこと、お願いしたいことって、何かありますか?
「社会に出る」ってすごく厳しいことで、卒園した後につまづいてしまう子ってすごく多いです。
だから体験させてあげることと、自立へのギャップを埋めることの両立を目指せないかと模索しています。
実はここ数年で社会的養護(※親と一緒に暮らせないなどの状況にある子どもに対し、行政の責任でケアを提供すること)の子どもたちへの支援がすごく増えてきて、施設に届くお知らせを全部処理するだけでも大変という状況です。
そういった支援は「子どもたちのために」という思いで行われているものですけれど、受け取った職員は施設内の全ての子どもに案内が行くように全ユニット分チラシやメールをコピーして配布したり、イベントに行くのに職員の引率はどうするのか検討したりしているんですが、そういうことが外部の方にあまり伝わっていないと思うんです。」
――職員も当事者というか、子どもの育ちに一番責任を持って関わっているはずなんだけど、皆さんあまりそこには注意が向いていない、と。
職員も一緒に体験できるようなイベントであれば、帰ってきた後に食卓で「今日面白かったね」「次はこんなことにトライしようか」と話ができる、それがすごく大事なことかなと思っています。子どもだけの体験だと「今日どうだった?」「え、楽しかった」で終わってしまうこともあって。
施設職員の僕らが一番子どもたちと過ごしている時間が長いわけで、よい関係を築き上げていくためにも職員も絡める形で子どもを支えていただけたらなと思うんです。
非日常的なイベントを単発でやっていただくよりは、子どもたちの日常とつながっている範囲で、継続的に何かしていただけたほうが、子どもの育ちにつながります。」
――それはとても大事なことですよね。ただ、今の施設職員の配置基準はケア職員1人で小学生以上の子どもを4人以上見る計算(実際には子ども8人くらいまで増え得る)になっていると思います。そうすると外部のイベントに引率に行きたくても、子ども1人に職員1人をつけることは現実的に難しい部分もあるのではないでしょうか。
特に小平市にあるような児童養護施設にとって、朝から都心に出かけていくとか、例えばお台場で何かイベントがあるとかいうと、引率の職員にはけっこうな負担があります。
この地域でやるイベントに参加するんだったら、ふだんの生活の中で子どもひとりひとりに個別対応していくことの延長線上でできるかなと。
小平の周辺でもっと機会をつくっていただくとか、外に出かけるんじゃなくてうちの施設内で何かやっていただくとかですね。それが地域の皆様の社会的養護への理解にも繋がっていくはずですし。」
ギャップを乗り越えるためのアプローチ
子ども同士で境遇もわかるし、いい点もありますけど、子どもが施設を卒園して社会に出ていった後は、周りの人は施設出身じゃない人がはるかに多いわけじゃないですか。
だから施設の子も地域の子も関係なく、子どもに向けた取り組みをもっと増やせないかなと思っているんです。」
児童養護施設の職員って、目の前にいる子に対してはすごく一生懸命なんだけど、ともすれば外で起きていることに目が向かなくなっちゃうんです。そうすると、「施設の子ばっかり優遇されている」みたいに見えてしまうことがあるな、という印象があります。
例えば、今の行政による児童養護施設の子どもの塾代の支援のあり方なんかは、僕はけっこう抵抗感があって。お金で解決策を得ているようなケースがありはしないか?と心配になってしまいます。
その子に合った勉強のスタイルって、生活を一番見ている施設職員が一番よくわかったりするので、昔から学習ボランティアさんを取り入れたり、職員が頑張って勉強を教えたり、工夫してやってきたんです。
その工夫が、社会に出てからの困難を乗り越えるための糧になっていたような気がします。
とはいえ、(行政の予算でやるべきことも含めて)まだまだ必要な支援はたくさんあります。支援は必要なんですが、それが自分で選択できること、また、与えっぱなしなのではなく、ともに経験できることが大事なのではないでしょうか?
子どもが世の中へ出ていくときのギャップが一番大きいと思うんですが、僕はギャップはあってもいいと思うんです。
ギャップを乗り越えるための支援の選択肢がいくつか用意されていて、その中から本人が自分で選んでいくのが一番良いんだと思ってます。選択ができないのは厳しいんですね。
子どもが自分でできることは何でも自分でやる、自分で選んで決める。それをそばで支えられる支援があればいいな、というふうに思います。」
――選択肢をいっぱい持っていて、自分で選べる。それが「自立」ということなのかもしれませんね。私たちのように子どもを支援する非営利団体にとっても、参考になるお話を伺うことができました。菅原施設長、竹村さん、ありがとうございました!
お二人には、「オープンカフェ」の取り組みについてもインタビューさせていただきました。こちらのコラムをご覧ください。
社会で子育てドットコム編集部
「社会で子育てドットコム」編集部では、虐待や経済的事情などの理由により親と暮らせない子どもたちを中心に、児童福祉についてニュース紹介や記事の執筆をしています。NPO法人ライツオン・チルドレンが運営しています(寄付はこちらから→ https://lightson-children.com/support/#donation )。
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